<巨人9-1DeNA>◇1日◇東京ドーム

 背番号「55」が東京ドームで躍動した。1日に1軍登録された巨人大田泰示外野手(22)が「7番一塁」で即スタメン出場。先制打を含む3安打3打点で、お立ち台に立った。超大型スラッガーとしてドラフト1位入団してから4年。積極的な守備、走塁も申し分なく、辛抱強く指導を行ってきた原辰徳監督(54)も感慨深げだった。優勝へのカウントダウンを進めるチームに、大田が息吹を吹き込んだ。

 優勝争いまっただ中の巨人に、高校球児が紛れ込んでいるようだった。この日に1軍昇格し、いきなり今季初先発した丸刈りの大田が、全力で打ち、走り、守った。「ここで結果を出さないと」との必死さが出た。広島から駆け付けた両親が見守る中、先制打を含む3安打3打点に横っ跳びでの好捕、1球ごとにリードを広げて次の塁を狙った積極走塁。大粒の汗を拭きもせず「必ず結果が出ると思って一生懸命やってきた。本当にうれしい」と笑った。

 今季は勝負の年だった。オフにパーマをかけたが、実績もないのにオシャレに走った姿勢を阿部に注意された。昨年12月、寮で仲間にバリカンを託し丸刈りに。「気合入りました」と意気込み、初の開幕1軍を果たした。だが結果は伴わず、4月10日に2軍行きを告げられた。「つらかったです」。追い打ちを掛けるように5月には左太もも裏を肉離れした。

 2軍生活が分岐点になった。入団時に「どうすればうまくなるか、考えることは自由。考える力は一流でいたい」と話していた大田は、松井秀喜の「55」を引き継いだ3年間を振り返った。そして気付く。「3年目までは来た球を打っていた。それで1軍に出て相手に遊ばれる。頭が使えるようにならないと」。行き着いたのは「頭を使う」こと。打撃フォームは思い詰めるのはやめた。配球を学び、球種や狙い球を頭に入れて打席に入るようにした。

 昨年6月4日の楽天戦以来のスタメンで成果は出た。第1打席は初球こそ見逃すも「狙った球にいいスイングできた」と中前へ先制適時打を放った。先頭打者の2打席目は「甘い球は一発で仕留める」と初球を左安打。3打席目は「積極的にいかないと不利になる」と2球目を右中間への2点二塁打とした。考えることで、ようやく高い潜在能力を発揮。「野球のことを考えたあの時間は、無駄じゃなかった」とかみしめた。

 約5カ月ぶりに戻った1軍。試合前、奮い立つ出来事もあった。ミーティングで、神奈川・東海大相模の先輩でもある原監督から「人生を変えてみろ」とハッパを掛けられた。「ここでやらなきゃ」と心に響いた。そんな大田に、原監督は「これだけはつらつと戦っている姿を見て、夢にまで見たところです。振り込んで練習しているので結果が出た。偶然じゃない」と喜びつつ「あまり褒める必要はない。4年目ですね、彼は。立派な野球人として歩いていかないと」と表情を締めた。

 大田も思いは同じ。「結果を出してようやくスタート、プロ野球選手になれる。やっと仕事ができた」と言いつつも、帰り際に「大事なのは明日です」とつぶやいた。「もうチャンスは逃さない」。優勝への階段を上るチームに、覚醒の予感漂う「55」が加わった。【浜本卓也】