再びの二人三脚で世界一へ-。侍ジャパン栗山英樹監督(61)がWBC初戦の中国戦(東京ドーム)を翌日に控えた8日、あらためて「世界一」への決意を口にした。先発には大谷翔平投手(28)を送り、投打二刀流で起用することを明言。日本ハム時代はもちろん、花巻東(岩手)時代から知る愛弟子と頂点を目指す7試合が始まる。

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記憶がさかのぼった。開幕前日の思いを問われた栗山監督は「東京ドームの開幕戦で、すごく緊張して。子どもの時の夢に、これから行くんだと。そんな感じの気分に近いなあと。大好きな野球に勝負させてもらえる」と熱かった。89年4月8日の巨人戦は、ヤクルトの1番中堅だった。あれから34年。世界一の“夢”に愛弟子と挑む。

12年前の瞬間が、今でも脳裏にこびり付いている。

初めて大谷の投球を見たのは、日本ハムの監督に就任する前、11年6月ごろだった。東日本大震災直後から宮城・気仙沼の高校を追いかけていた。練習試合に足を運ぶと、相手校は2年生の長身右腕が登板した。それが大谷だった。ネット裏の席から目撃する。

「本当に、あの衝撃は一生忘れない。球の速さじゃないんだよ。ボールの角度。リリースからアウトコース低めにくる角度が。こんな角度で、こんな球の質を持った高校生がいるんだ!…って。とても衝撃を受けた」

当時を語るとき、自然と熱がこもる。3イニングを目に焼き付け、思った。

「これは本当にダルビッシュ以来だな」

数年前から存在だけは知っていた。同じ岩手が生んだ剛腕に聞いていた。菊池雄星を取材した時だ。「僕が(花巻東を)卒業したら、僕よりすごいヤツが入ってきますよ」。おいおい、冗談だろう。「お前よりすごいヤツが、そんなすぐ出てきたら、そんなもん大変だ」。笑って返した。冗談ではなかった。

投球を目撃する2カ月前、テレビ番組の取材で大谷と言葉を交わしていた。被災したチームメートに触れ「愚痴ひとつ言わないんです。だから僕も頑張らなければ」と言われた。

「人間的な魅力とか、純粋さとか。俺がプロ野球選手に求めたいものを持っていた」

内面にひかれ、プレーに衝撃を受けた。1年8カ月後。監督と選手になる。運命かも知れない。5年間をともにした。あえて厳しい言葉をかけ続けたのは、大きな愛の裏返しだった。

「世界一の選手になると信じています」。そうメジャーの舞台へ送り出し、また5年がたち、同じチームで再会した。ともに世界一を目指す思いを聞かれても「いっぱい、いろんな思いがありますけども…今はね、僕はジャパンの監督なんで。個人的なものは一切、捨ててるつもり」とあえて封印し、こう続けた。

「ファイターズ時代も、ずっと彼に伝えてきましたけど、二刀流はチームを勝たせるためにあるんだということだけを願ってるし、信じていくだけです」

9日東京ドームから、21日(日本時間22日)ローンデポ・パークまで。7試合の旅路。さあ、ともに歩もう。【古川真弥】

○…湯浅は初のWBCで、場面問わずフル回転の活躍が期待される。3日の壮行試合中日戦後のタイブレーク練習で登板。無死二塁を3者凡退で切り抜け、ピンチでの登板に適性を示していた。大勢、栗林が守護神有力候補。湯浅や宇田川は走者がいる場面など厳しい状況での起用も考えられる。6日に行われた阪神との強化試合も1回無失点に抑えた好調右腕が、いよいよ国際舞台に飛び出す。

○…中野が日本のラッキーボーイになるかもしれない。6、7日に行われたWBC前最後の強化試合2試合は、いずれも途中出場。本番でも代走や守備から試合に入り、その後打席が回ってくる可能性もある。「厳しい場面で試合に出ることもあると思う」と語ってきた背番号7の覚悟は固い。試合終盤、貴重な1本を生み出す準備はできている。

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