「令和の怪物」が衝撃のWBCデビューを飾った。侍ジャパン佐々木朗希投手(21)が「カーネクストWBC東京プール」のチェコ戦に先発し、3回2/3を2安打3四死球で1失点(自責0)。不運な失策から初回に先制を許すも、最速164キロの直球を軸に8三振を奪い、2回以降はチェコ打線を封じた。初回は直球10球すべてが100マイル(約161キロ)超え。東日本大震災から12年となる「3・11」の特別な日に、被災地出身の思いも背負って世界を驚かせた。チェコに勝利し、4連勝での準決勝進出に王手をかけた。

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満員のスタンドから降り注ぐ拍手と声援を、佐々木がお立ち台からかみしめた。「この満員のドームの中で今日は投げることが出来てうれしいです」。21歳らしくちょっぴり照れくさそうに、でも言葉は力強かった。

剛速球がうなりをあげた。最速164キロ直球と140キロ台後半のフォークで8奪三振と圧倒した。4回1死一塁、スモラを空振り三振に仕留め、球数制限の上限65球を超えて降板。「球数がかさんでしまったんですけど、どうにか最少失点で投げることができて良かった」。栗山監督とナインからハイタッチをかわし、162キロで死球を当ててしまったエスカラへの謝罪も忘れなかった。

忘れられない1日になった。ちょうど12年前の3月11日、人生が一変した。東日本大震災で被災。父功太さんと祖父母を亡くした。自宅は津波で流され、故郷の岩手・陸前高田から大船渡への移住を余儀なくされた。12年後、運命に導かれるように、WBCデビューマウンドに上がった。宮崎での強化合宿中に栗山監督からこの日の先発を告げられた。「3・11」で自分が登板する意味も理解していた。「分かってはいたんですけど、チームの勝ちだったり、自分のピッチングができるように、今日まで準備してきました」と自らの役割に集中して未来を見つめてきた。

ド派手な剛速球の裏にはどっしりとした土台があった。マウンド上に残る右足を蹴る際に描かれた濃く、力強い「わだち」。ほとんど“足跡”が残らない投手もいるなか、佐々木のそれは人一倍深く、長い。特に平地のキャッチボールでは顕著で、約1メートルに及ぶことも。ロッテ小野投手コーチは「ボールを押し出す時間の長さと、力強さの証し」と言う。怪物右腕たる由縁が足元にあった。

マウンドに刻まれたわだちのように、視線は力強く、深く未来を見つめた。東北から画面越しに見つめる子どもたちへ「僕が投げてる姿で何か感じてもらえたらなと思います」。立派に成長した「令和の怪物」。美しく圧倒的な1球1球が、人々の“希望の轍”となる。【小早川宗一郎】

◆佐々木は大谷超え 佐々木が大リーグの測定システムで最速101・9マイル(約164キロ)を計測した。1回、3番フルプの打席で、左二塁打の1球を含めて2球あった(球場表示の164キロは1球)。大谷のメジャー最速球は、昨年9月10日アストロズ戦でマークした101・4マイル(約163・2キロ)。佐々木は0・5マイル(約0・8キロ)上回ったことになる。オープン戦の参考記録では、大谷は21年に最速101・9マイル(約164キロ)を計測した。

◆日本の準々決勝進出条件 1次ラウンドは各組上位2チームが準々決勝に進む。日本は今日のオーストラリア戦に勝てば4勝となり、B組1位で通過。正午時開始のチェコ-韓国戦でチェコが敗れた場合はその時点で日本の2位以上が決まり、試合前に準々決勝進出が決定する。チェコ○、日本●の場合、日本、オーストラリア、チェコが3勝1敗で並ぶ可能性があり、その時は失点率などで順位が決まる。

【WBCライブ速報】侍ジャパン3連勝で準々決勝進出王手