日刊スポーツの名物編集委員、寺尾博和が幅広く語るコラム「寺尾で候」を随時お届けします。

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WBC大会の初戦から劇的な満塁ホームランを放った大谷翔平の勇姿を観たのは、巨額の独占放送権を得たネットフリックスが配信するスクリーンの大画面だった。

今大会では、大阪駅にある大型商業施設グラングリーン大阪にある食と文化が融合する「Time Out Market」でパブリックビューイング(PV)が開催されている。

開幕した6日台湾戦の2回1死満塁の場面で生まれたグランドスラム。初っぱなで固くなりがちなチームの緊張を瞬時に消し去るかのような一太刀で、一気にコールド勝ちをもたらした。

拙者が生で大谷の満塁弾に触れたのは24年8月23日、ロサンゼルスの夜。ダウンタウンで呉服屋を経営した亡き叔母の仏前に供花し、手を合わせた後でドジャースタジアム入りした日のことだった。

当日のレイズ戦では、2回にシーズン40個目の盗塁を成功させて「40-40(40盗塁、40本塁打)」に王手をかけた。そして同点の9回2死満塁にセンターオーバーのホームランを放ったのだ。

自身初のサヨナラ本塁打。MLB史上最速の「40-40」達成の瞬間に「ウォー!」と絶叫したヒーローは、ホーム付近でもみくちゃになって、ウオーターシャワーを浴びた。

監督ロバーツは「まるでおとぎ話のようだ」と声を上ずらせたのも無理はなかった。当の本人でさえ興奮していた。それは今までの記憶をたどっても、大谷がもっともはしゃいだシーンに映った。

「いやぁ、もう本当にうれしかったですね。最後に打つことができて、ドジャースに来てから一番の思い出になったと思います」

スタンディングオベーションは止まず、こちらも珍しく鳥肌が立った。その年は最終的に史上初の「50-50」を越える54本塁打、59盗塁を記録。約1年半を経た今大会も初戦からファンの期待を裏切らなかった。

あのレイズ戦以来の満塁本塁打になった台湾戦。大谷が打席に入る前に隣でつぶやいたのは、阪神日本一監督・岡田彰布だ。2回1死満塁で巡ったチャンスに、その選手が醸し出す雰囲気を見てとった。

「大谷って、こういうところに回ってくるんよな。そやろ…」

岡田は「Time Out Market」で行われたPVに特別ゲストとして招かれていた。舌鋒(ぜっぽう)鋭い上、先読みに定評のある解説は、侍ジャパンの国際大会も健在だった。

「この1次ラウンドで一番効果的なのはホームランよ。流れを変えて、空気をつかむのがホームラン。2回まででメジャーリーガーで先制したいよね。ポイントになるのはフォアボールとホームランちゃうか」

試合前の岡田の言葉通り、村上の四球が絡んでノーアウト満塁のシチュエーションになった。9番若月健矢が捕邪飛で1死後、大谷のホームランが飛び出したのだから、まさに“オカダの読み”がさえた。

そして「あそこで若月が転がして1点とって、1死二、三塁やったら、大谷は勝負を避けられてるからな。若月が(捕邪飛で)いらんことしなくてよかったんよ」と勝負のアヤを語ると会場は盛り上がった。

台湾、韓国、オーストラリアを撃破した日本はC組1位で準々決勝進出。お家芸の“スモールベースボール”から脱却したかのようなラージな打線に、今までとは異なる侍ジャパンの変化を感じた。(敬称略)