プロレスの世界でトップに立つ選手には、独特の雰囲気がある。畏敬の念を抱かせるようなオーラと、観客の期待を一身に集めるような存在。そんな選手が、全日本プロレスにも出てきた。3冠ヘビー級王者宮原健斗(29)だ。1番気に入っているのは、宮原がコーナーのロープに足をかけ、観客席に向かって手を耳にあて、歓声をあおるポーズつくる姿だ。

 それが、ある選手のポーズとダブって見えることがある。宮原が最も尊敬し、目標にもしてきた米国のスーパースター、ハルク・ホーガンだ。体格は一回りほど違うが、かつて世界を熱狂させたホーガンのように、宮原も全日本の観客を熱狂させている。

 「子どものころから、ビデオを借りて何回も見てきた。ただのあこがれだったんですが、今、チャンピオンになってホーガンの動きがとても参考になることが分かった。お客さんのじらし方であるとか、お客さんの求めるものに120%応えようとするパフォーマンスとか」。

 福岡の市立福翔高校を卒業して、健介オフィス入り。08年にデビューして今年が10年目となる。14年1月に入団した全日本では、16年2月に26歳11カ月で、史上最年少の若さで3冠ヘビー級のベルトを巻いた。そこから歴代2位の連続8回防衛を達成し、一気に団体のトップを背負う存在になった。

 「全日本の3冠王者は誰でも背負えるものじゃない。オレは、全日本を神様に託された、選ばれた存在だと思っています」と宮原は言い切る。その思いに負けないくらいの練習。練習と食事、寝るとき以外は、ほとんど昔のプロレスのビデオを見るというプロレス愛が、宮原を支えている。

 「全日本をさらなる高みに持って行きますよ。全日本はこんなもんじゃない」。趣味はないと言っていた宮原が、最近は歌手の安室奈美恵に注目しているという。「安室さんのコンサートで、アンコールへの持って行き方とか、マイクパフォーマンスとか参考になりますね」。やっぱり、プロレスのことしか考えていない。【桝田朗】