プロボクシングWBC、WBO世界スーパーバンタム級王者井上尚弥(30=大橋)が26日、東京・有明アリーナで開催されるWBAスーパー、IBF世界同級王者マーロン・タパレス(31=フィリピン)との4団体王座統一戦に臨む。
井上のセコンドにはトレーナーの父真吾氏(52)が入る。世界を驚かせ続ける井上親子による相手対策には、他のジムではあまり見られない独特な「視点」が入っている。
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井上が太田光亮トレーナーの持つミットに目がけ、パンチを放つ。その両者を真吾トレーナーがコーナー付近でチェックする。その光景は、まるで試合と同じ立ち位置となる。大橋ジムの元ボクサーでもある太田トレーナーが器用にタパレスの動きを模倣。井上は時に素早く、時にゆっくりとミットを打つ。タパレスの独特な伸びる左ストレートをまねた太田トレーナーに反応し、井上がバックステップで距離を取り、すぐさま攻撃に転じる。ここで真吾トレーナーが気になった点を助言する。3人が頭を使いながら対戦相手の対策を練っている。
井上のパンチ力に耐えられず、真吾トレーナーが右手首を痛めたのは17年。同年12月のWBO世界スーパーフライ級王座の7度目防衛戦(ヨアン・ボワイヨ戦)前から太田トレーナーがミットを担当し始めた。真吾トレーナーは「自分がミット持てなくなったけれど、一歩引いたところでアドバイスを送る。それが今はできているので、すごく良い感じなのかなと思う」と手応えを示した。
通常は選手が担当トレーナーの持つミットにタイミングを合わせながらリズミカルに両拳を打ち込むパターンが多い。2人で対戦相手の攻撃パターンやクセを情報交換し、対策を練るのが通常と言っていい。井上のミット打ちの場合、対戦相手の動きを模倣する太田トレーナー、その両者を俯瞰(ふかん)してチェックする真吾トレーナーの「視点」がある。
「太田トレーナーも(井上と)『こうやって、こうやって』と言いながら対策を考えてくれる。その2人の話を踏まえ、自分が『ここを気をつけようか、逆に伸ばしていこうか』と1歩ひいたところで見られるのがいいと思う」。
真吾トレーナーにとっても2人を見る「視点」からのアドバイスには手応えがあるという。「たまたま自分がミットを持てなくなったのがきっかけだけど、持ち続けていたらこうにはならなかった。一般的にみればサンドバッグを打つ選手を見る視点ですが、それだと相手は動かないし、意味がない。3人で試行錯誤して(戦略が)できる」と納得の表情を浮かべた。
タパレス戦に向けても、井上には細かい助言を続けてきた。幼少時代から指導し、性格やスタイルを熟知しているからこそ、重要なことは最後に伝えているという。真吾トレーナーは「言っていることは単純なこと。油断はできない。本当にささいなところを、あらためて言う。それは最後にあらためて言う方が頭に残ると思う。そこで頭に入ると(井上の)反応が違うと思っているから」と強調する。
この細かい指摘が、井上の強さを支えていると言っていいだろう。井上が世界的に高く評価されるボクサーに成長しても、父真吾トレーナーの「視点」「助言」が必要不可欠なのだ。【藤中栄二】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける」)


