プロボクシング4団体統一スーパーバンタム級王者井上尚弥(31=大橋)がサウジアラビアを電撃訪問した。同国政府直轄のプロジェクト「リヤド・シーズン」のスポンサー契約を結ぶため、2日夕方に政府側関係者から用意されたプライベートジェットに大橋秀行会長らと同乗。給油も含めて自宅出発から現地時間3日午前2時30分にリヤドに到着した。そして休む間もなく「サウジタイム」に合わせたスケジュールを消化していった。
リヤドの空港で政府の総合娯楽庁トゥルキ・アラルシク長官の側近たちに出迎えられた。そのまま所属ジムの大橋秀行会長(59)らと高級車に乗り込むと、ムハンマド・ビン・ファイサル・アル・サウード王子の自宅へと直行した。ムハンマド・ビル・サルマン皇太子のいとこにあたる同王子は井上の大ファン。同4時近くになった井上の到着をずっと待っていたという。深夜のディナーは日本食がもてなされる熱列な歓迎ぶりだった。
あまりに深夜でも元気な同王子に井上は「いつも何時に寝ているのですか?」との質問したほど。「大体、午前4時半ぐらいかな」と笑顔で返答されると驚いた表情を浮かべ、「サウジタイム」を受け入れた。同王子の自宅を出発したのは同5時過ぎだった。11月でも日中は軽く30度を超えるサウジアラビア。暑さをしのぐため、深夜に動く夜型生活は通常なのだという。
井上らが長距離移動の疲労回復やコンディションを整えるためにつかの間の休養を取ったが、所属ジムの大橋秀行会長(59)は午後から関係者とともにアラルシク長官の代理人との交渉のテーブルについた。そして午後7時には再びサウード王子の訪問を受け、サウジアラビア公演で滞在中のWWEの観戦同行を提案されて同意した。
前日2日にWWEプレミアム・ライブイベントのクラウンジュエル大会が大盛況に終わった翌日、ロウ大会テレビ収録だった。イヨ・スカイが勝利したWWE女子世界王座挑戦者決定バトルロイヤル戦には間に合わせなかったが、セミファイナルのドラゴン・リーVSチャド・ゲイブル戦から観戦した。メインの世界ヘビー級王座挑戦者決定戦終了で収録は終わり、最後にジェイ・ウーソが入場曲とともに登場。全米で流行中のウーソによる「YEET」合唱で会場内を盛り上げて興行を締めくくったところまで見届け、会場をあとにした。
その後、井上はアラルシク長官本人とコンタクトをとるために同長官の「ファーム」と呼ばれる広大なオフィスの一部を訪問。元WBC世界ヘビー級王者タイソン・フューリー(英国)らも試合前に使用したとされるボクシングジムでシャドーボクシングを披露した。オフィスハウスに場所を移し、同長官と最終交渉。スポンサー契約が合意に達したのは4日午前2時ごろ。その14時間後には、プライベートジェットで帰国の途についた。
サウジアラビア政府直轄プロジェクト「リヤド・シーズン」とのスポンサー契約は推定で総額30億円にのぼる。驚く高額契約となったが、現地報道によると同国のエンターテインメント産業の投資額は約9兆6000億円(期間は不明)と言われる。国を上げて力を注いでおり、サウジアラビア側からすれば「通常」の投資金額だという。
アラルシク長官は「リヤド・シーズンは通常、10月から2~3月までさまざまなとスポーツ、文化、音楽のコンサート、あるいはさまざまな催しが行われる一大イベントだ。日本の皆さまにぜひこちらを感じていただいて、来ていただくことが目的。あともう1つ、来年、井上選手がサウジアラビアでビッグファイトしてくれることを期待する」と発言。今回の契約には試合に関する条項は一切、記載されていないが、豊富な「オイルマネー」を投じた試合オファーもあるだろう。
脱炭素の世界的な流れを受け、サウジアラビア政府は「サウジ・ビジョン2030」を制定。石油依存隊卒からの脱却とエンターテインメントでの成長戦略を軸に掲げる。「リヤド・シーズン」が中心的や役割を担い、文化、娯楽、スポーツ振興、教育改革、ヘルスケアの拡充を掲げ、国民の生活充実度をアップ。文化&スポーツ振興を掲げる。サッカー、ボクシング、UFCなどスポーツ分野だけでなく、日本のデジタルアートコンテンツ制作会社チーム・ラボも招聘(しょうへい)し、ジッダ歴史地区に常設展を設置するなど芸術方面にも熱心だ。
大橋会長がサウジアラビア側と1日8時間かけて交渉し、成立させた今回の破格の大型スポンサー契約。同会長は「アラルシク長官は井上以外の日本人ボクサーを知らなかった。今、日本のボクサーは優秀な王者がいるし、ひと目みたら大ファンになると。井上はこれから夢のかけ橋になる役割。未来に向けての突破口を開くことが使命です」と強調。2025年の日本ボクシング界にどのような効果をもたらすかが注目されている。【藤中栄二】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける」)


