やっぱりオヤジは偉大だった-。卒業証書を手に、あらためて実感した。

 角界入りした新弟子は必ず、相撲教習所に入所し6カ月間、実技や相撲史、一般常識、書道などを学ぶ。東京場所終了後、入所及び卒業式が行われ、今回も29日に新弟子が通い慣れた両国国技館内の相撲教習所で行われた。

 今年3月の春場所新弟子検査に合格し、晴れて角界入りした松沢亮英(19=朝日山)も、この卒業式に出席した。千葉・八千代松陰高時代はラグビー部でプロップ、フッカーとして活躍。調理師を目指し専門学校の合格通知も受けたが「やっぱり自分にはスポーツが合っている。挑戦してみたい」と角界の門をたたいた。入門したのは自分の父が興した部屋。父は史上ただ一人、平幕優勝2回を成し遂げ「F1相撲」の異名を取った、元関脇琴錦の朝日山親方(49)だ。

 もちろん親の七光など通用しない、文字通り裸一貫の実力だけの世界。それは百も承知で、決して甘く見たわけではなかった。ただ何せ相撲は初体験。壁には当然、ぶち当たった。番付に初めてしこ名が載った5月の夏場所こそ、5勝2敗と上々のスタートを切ったが、序二段に上がった7月の名古屋場所は1勝6敗。再び序ノ口に番付を下げたこの秋場所も3勝4敗と負け越した。

 「もちろん相撲はまだまだなんですが、一番悪いのはメンタル面。1回負けちゃうと『負け越してしまう』と焦って、尾を引いちゃうんです」。あどけない笑みを浮かべながら松沢は、自分の弱点を分析した。相撲についても「脇が甘い。ラグビーでは甘くても良かったけど、相撲では駄目。なかなか直らないんです」。入門して半年。道半ばどころか、まだ1歩目を踏み出したばかりなのだから、直面して当然の壁だ。

 ただ、悪いようには考えない。名古屋場所は1勝2敗から4連敗したが、秋場所は負け越し決定から、精神面で立て直し連勝で締め「だんだんとメンタル面も良くなっていると思います」と精神的にも落ち着いてきた。168センチ、76キロで新弟子検査をパスした体重も、20キロ増。「石浦関の、あのスピード感のある相撲が好きなので、120キロぐらいまでは増やしたい」と言う。

 入門前の今年2月までは「(父の)言うことは聞いてないこともあった」と、どこにでもいる長男坊だった。入門を境に、それは師弟関係になり「厳しく怒られることが多くなった。今は素直に受け入れてます」と話す。さらに肌で感じた父へのリスペクトも。「入門して序ノ口で1場所取っただけで分かりました。父は偉大すぎます」と脱帽した。

 入門時に挙げた「幕内力士」の第1目標は「厳しい世界と分かりました。関取になることです」と、新十両昇進に“下方修正”した。その父であり師匠の朝日山親方は、相撲教習所の卒業を機に、10月から稽古まわしを締め愛弟子を鍛えるという。「まだまだ勝ち方を知らない。これからですよ」。親子鷹に期待したい。【渡辺佳彦】