99年ぶりに3横綱2大関が休場し、日本相撲協会にはチケットの返金を求める抗議の電話もあったという秋場所。終わってみて実際にファンは、世間はどう感じたのだろう。面白かったのか、つまらなかったのか。盛り上がったのか、興ざめだったのか。観戦に訪れた友人に聞けば「熱戦が多かった」「これはこれで打ち上げに花が咲いた」などと好意的な声が多かった。

 “中”で取材をしていると、実際の体感温度はよく分からなくなる。優勝成績は11勝4敗と、低レベルと言えば低レベル。そこだけを切り取れば情けなくも見える。ただ、周囲は「誰が優勝するか分からないから面白かった」とも言う。

 終盤に10人以上もの力士に優勝の可能性が残っていたのは、取材する側からすれば実に「ドキドキ」だった。見ている人たちには「ワクワク」だったろうか。豪栄道には申し訳ないが、13日目で優勝が決まっていたら、14日目、千秋楽の話題に困ったかもしれない。本命不在だったからこそ、誰が勝つのか、どちらが勝つのか、ワクワクやドキドキが最後まで続いた。こんな感覚は昨今の大相撲では、なかなかない。

 こんな場所だからこそ、よく「世代交代」という言葉が出た。実際に阿武咲や貴景勝、朝乃山といった20代前半の力士の活躍が場所を盛り上げてくれた。

 ただ、秋場所はまだ、若手の活躍が目立っただけ。「世代交代」という言葉が当てはまる場所ではない。世代交代とは、加齢によって自然と起こることもあるが、我々が求めている形はおそらく、違うからだ。

 かつて「角界のプリンス」と呼ばれた大関貴ノ花を一方的に破って引退を決意させたのが千代の富士。その横綱千代の富士を倒して引退に追い込んだのが、プリンスの息子の貴乃花だった。ここまでドラマチックにはならずとも、若い世代がベテランの上位と実際に対戦して、倒し、引導を渡す-。それがあって初めて、望みの「世代交代」は生まれる。

 上位陣の休場という不可抗力な未対戦はもちろん、仕方がない。ならば、おそらく上位陣が出てくる次の九州場所は、今場所の物語の続き。若手は、上位を倒す力を養えたのか。それとも、両者にまだまだ差はあるのか。地殻変動、世代交代は面白いが、そう簡単に許さないベテランの意地と迫力にも見応えはある。

 99年ぶりの事態が起きた秋場所。どうせ取り返しがつかないなら、ここから「あの物語が始まった」と後々、振り返ってみたい。【今村健人】