1年納めの九州場所(11月12日初日、福岡国際センター)が迫ってきた。秋場所は初日から3横綱が休場する異例の事態だっただけに、今度こそ4横綱がそろって皆勤するか、期待したいところ。やはり途中休場した宇良(木瀬)の復活や、三役昇進が濃厚な阿武咲(阿武松)の暴れっぷり、かど番で迎える大関高安(田子ノ浦)の復調など、相変わらず角界は話題に事欠かない。

 そんな注目力士の1人が照ノ富士(伊勢ケ浜)だ。かど番で迎えた秋場所は、左膝半月板損傷のため6日目から休場(1勝5敗9休)。九州場所は大関から陥落する。規定により10勝を挙げれば、1場所で大関に返り咲くだけに、その星取から目が離せない。

 この秋巡業は治療とリハビリを経て、19日の奈良・香芝市巡業から合流した。大事を取って、当初は回避するかと思われた割(取組)にも加わり、朝稽古も翌日から土俵に上がり、平幕の正代らと10番も取った。膝の状態を試しながらの、文字通り試運転の稽古だった。それでも、いきなり割に入ったことには「それぐらい誰だって出来るよ。出来るのに(他の力士は)やらないだけ」と、気丈な言葉を発し、大関から陥落することにも「別に。(ケガが)治れば(大関に)いつでも上がれる。番付が落ちることは何とも思っていないよ。自信がなければ相撲は取れない。(陥落する)下から向かっていく立場の方がやりやすい」と、あの持ち前の負けん気の強さをのぞかせていた。

 一方で、怖いもの知らずを感じさせた25歳に、慎重さも備わったことを感じることもある。気丈な言葉を口にした後で「ちょっと弱気になってるなぁ」と話したコメントからだ。「以前は(自分に)荒々しさがあったけど、それが今はないんだ。何でだろう。それ(膝)と気持ちやろな。怒ることも最近、ないんだ。何でもかんでも最近は楽しく感じる。これはアカン」。自戒を込めた口調だった。

 ケガをして大関という看板が外れ、いろいろ思うところもあるのだろう。体を生かした強引に相手を抱え込む相撲が膝のケガを誘発したという、親方衆の声もある。自分の相撲を見つめ直す機会であれば、それも良し。あくまでも横綱という頂点を見据える照ノ富士にとっては、大関陥落は一過性の屈辱にすぎず、いい経験になったと、後になれば思えるはずだ。あの奔放でヤンチャな照ノ富士が戻るのも楽しみだし、リニューアルされた姿も見てみたい。そんな期待の目で、九州場所の土俵を見ることにしよう。【渡辺佳彦】