2冊目は、伝説のボクサーもの。マイク・タイソンの自伝「真相」。知人に渡された本だったが、示唆に富んでいた。

 「トレーナーのカス・ダマトが『偉大なボクサーになるには考えることをやめる必要がある』と言うんです。どうしてもスパーリングや試合中にあれこれ考えるので、やめようと。あとはタイソンが失墜していくのは、結局はモチベーションをなくしたのが分かった。カスと一緒に喜びを分かち合いたかったけど、亡くなった後は、喜びを共有できる相手もいない。周りに機械みたく扱われて。自分はそうならないように」

 3冊目は、プロ転向後に、何度も立ち返ってきた1冊になる。ビクトール・フランクル「夜と霧」。第2次大戦下、ドイツ強制収容所の体験記録である哲学者の著書は、哲学書を読む父誠二さんの影響もあり、折に触れてきた。

 「『自分の人生に意味を問うのではなく、人生から与えられた課題にどう応えていくのか』ということが書かれている。つまり今できること、自分のできることに集中しろ、ということを言っていると解釈してます。世界戦への重圧も、他者との関係性の中でできる重圧ですよね。『五輪金メダリストだから勝たないと』とか。自分のできることは少ないし、そこまで責任を負う必要はない。心を楽にしてくれますね」【阿部健吾】