西前頭筆頭の大栄翔(27=追手風)が、初優勝に王手をかけた。玉鷲をはたき込み、自己最多の12勝目で2敗を死守。首位を並走していた大関正代が3敗目を喫したため、10日目以来の単独トップに浮上した。

4敗勢の目はなくなり、優勝の可能性は自身と正代に絞り込まれた。平幕が単独首位で千秋楽を迎えるのは、昨年7月場所の照ノ富士以来。緊急事態宣言下で迎えた初場所を、埼玉県勢初優勝で締める。

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大栄翔の迷いのない踏み込みだった。「同じ突き押しなので、立ち合いが勝負だと思った」。玉鷲とは過去6勝8敗と決して得意ではないが、立ち合いから圧力で上回る。土俵際で押し返されかけたが、余裕を持ってはたき込んだ。「流れの中のはたき。そこは自分の中では大丈夫」。引く場面はあったものの、納得の内容で2敗を守った。

賜杯を目前まで近づけた突き押し相撲の“歴”は浅い。相撲を始めたのは小1。当時通っていた朝霞相撲錬成道場の捧(ささげ)洋コーチ(57)は「小学校の6年間は、四つで取ってるところしか見たことがない」と振り返る。高校相撲の名門、埼玉栄高でも左四つだったが「高校だと(周囲と比べて)小さくなくて勝てた。でもプロでは勝てない。(師匠の追手風)親方にも言われて、突き、押ししかないと思った」。身長182センチは関取では平均的。プロになって突き押し相撲に徹し、同じ押し相撲の八角理事長(元横綱北勝海)らの動画を参考に、地道に磨き上げてきた。

千秋楽を単独首位で迎えるのは、もちろん初めて。重圧がのし掛かるが「いい感じの緊張感でやれている。その中で取るのは大変なことだけど、頑張っていきたい」。前向きな姿勢を強調した。

正代が3敗目を喫したため、千秋楽で勝てば優勝が決まる。結果次第では決定戦にもつれ込む可能性もあるが「どうなるか分からないけど、何番取ろうが自分の相撲を取る」。信じるのは自慢の突き押し。大栄翔に迷いはない。【佐藤礼征】

▽八角理事長(元横綱北勝海) 大栄翔は勝負勘が良かった。立ち合いから跳ねるような躍動感があり元に(前半戦のように)戻った感じだ。

▽幕内後半戦の錦戸審判長(元関脇水戸泉) 大栄翔は引くタイミング、押すタイミングも良かった。