やはり高安は緊張していました。それでも、これまで終盤で何度も苦い思いを味わった緊張でなく、しっかり腰を落として詰めを誤らなかった。

急いで出ずに一歩待ったことで、引きながらうまく回り込めたと思います。緊張しても同じ失敗は繰り返さないで、この相撲が取れたのは大きいです。私自身のことで恐縮ですが1度、逆転優勝されたことがあり人生で、こんなつらいことはない、と思ったものです。2度とこんな思いはしたくないと次の場所で優勝でき人生のトラウマにはならなかった。何度も逆転優勝を許しながら、今度こそという思いで土俵に立てる高安の精神力はすごいと思います。

そんな高安にとって相撲人生という以上に「人生」をかけた千秋楽ですが、対戦する阿炎はこの日の豊昇龍戦も体がよく動き、身長がなせる技の引き落としで逆転優勝の権利を得ました。追う立場で気楽に取れるので面白い一番になりそうです。若隆景戦が組まれた貴景勝も大関の責任は果たして、精神的には思い切って土俵に立てます。逆転優勝ともなれば、来場所は綱とりというモチベーションもあります。高安としては「負けても優勝決定戦がある」とは考えず、本割で決めるという強い気持ちで臨むのがベストです。(日刊スポーツ評論家)

【写真特集】高安-輝、阿炎-豊昇龍、貴景勝-王鵬、御嶽海-正代/九州場所14日目