ウクライナの新星が、鉄人の壁も破った。東前頭筆頭の安青錦(21=安治川)が、関取最年長40歳の玉鷲に勝ち、10勝目を挙げた。新入幕から3場所連続の2桁勝利は、1場所15日制が定着した1949年夏場所以降で阿武咲、大の里に続いて3人目の快挙。すでに来場所の新三役を確実にしているが、初優勝も見えてきた。

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相手の強烈な突きに顔を背けないのは、いつものこと。安青錦は前傾姿勢を崩さず、左を差す。間髪入れずに下手投げ。「感覚です」という動きで、玉鷲を仕留めた。「中に入ったら自分の形だったんで、しっかり落ち着いて勝てて良かったです」。右目に青あざが残る顔を緩めることなく、息を整えながら言った。

初顔合わせでも、圧力にひるまなかった。「40歳でやれるのは普通じゃない。すべて持っている力を出していこうかな」と自分の年齢の倍近い相手を尊重しつつ、勝ちきった。2桁勝利については「師匠のおかげです」と感謝した。

日に日に優勝を争う力士が絞られてくる終盤戦。緊張感が高まる中、「いつも通り、あまり意識しない。目の前の相手だけいつも意識してやっています」と話した。

その一方で、師匠の安治川親方(元関脇安美錦)は、弟子の緊張を感じ取っていた。この日の午前3、4時ごろ。宿舎のトイレの前でばったり会った。

「また(相撲のことを)考えているのか?」と師匠が声をかけると「たまたま目が覚めただけです」と答えたという。安治川親方は心中をおもんぱかる。「緊張しているみたい。緊張は準備の1つ。しっかり相撲を考えていることだから」。

安青錦はすでに三役以上との対戦を終え、残りは平幕を残すのみ。初優勝にたどり着けば、いくつもの記録がついてくる。初土俵から所要12場所での優勝は、最速10場所の尊富士に次ぐ(付け出し除く)。21歳4カ月の優勝は、貴花田、大鵬、北の湖、白鵬に次ぐ年少5位になる。日本を除く出身力士として6カ国目の優勝になる。

安青錦は「相撲を取る時間がだいぶ遅くなった。後半で相撲を取りたかったんで。でも、ここで終わりじゃないんで」と残り3日間を見据えた。師匠はその時を信じて、祝賀用のタイの準備を始めた。「今夜、知多港まで釣りに行こうかな」。もはや、冗談には聞こえなくなってきた。【佐々木一郎】

▽海外出身力士の優勝回数

モンゴル103回(白鵬45、朝青龍25、照ノ富士10、日馬富士9、鶴竜6、玉鷲2、霧島2、豊昇龍2、旭天鵬1、逸ノ城1)

米国27(武蔵丸12、曙11、小錦3、高見山1)

ブルガリア1(琴欧洲1)

エストニア1(把瑠都1)

ジョージア1(栃ノ心1)

▽初顔合わせの安青錦に敗れて4敗目の玉鷲 低い、強い。新しい取り口。寄りも強いし、はたきにも強くて落ちない。自分の押しがきかなかった。でもやって分かった。次は負けない。

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