「闇のアマゾン」と言われたダーク・ウェブ・サイト「シルクロード」を運営していたロス・ウルブリヒトがFBIに逮捕されたのは8年前のことだ。

「シルクロード.COM」(21日公開)はこの実話をもとに、抜け目ないサイバー犯罪者とアナログ捜査官の攻防を描いている。

シルクロードは検索に掛からないダーク・ウェブに、足のつかない暗号通貨を絡めた巧妙な仕組みで、各種ドラッグに加え、海賊版コンテンツ、ハッキング技術などが売買される文字通りの「自由市場」だった。

利用者にとっては何とも便利な「天才的発想」であり、開設と同時に莫大(ばくだい)な利益を生むことになる。

映画は事実を下敷きにしながら、創設者ウルブリヒトを「器用貧乏で、何か大きなことを成し遂げたいという強烈な思いを持った男」として描いている。

全額給付の奨学金で進んだテキサス大やペンシルベニア大で物理学、結晶学を学ぶ一方で、自由放任主義のリバタリニズム経済理論に傾倒している。この考え方がシルクロードの根っこにあるわけだ。

起業家志向の彼はデイトレードや中古本のオンライン販売で一定の成功を収めるが、満足しない。保守的な父親からは「腰をすえろ」とたしなめられる。犯罪リポーターの経験があるティラー・ラッセル監督は「先見の明を持つ人物、夢追い人、ペテン師…彼にはいろんな顔があるが、本質的にはどこにでもいる人物」という。

「ジェラシック・ワールド」(15年)のニック・ロビンソンが強烈な思いを胸に秘めながら、一見すれば「普通の男」をバランスよく演じている。想像を超えた成功への戸惑い、自分でも制御できない上昇志向…。罪悪感が希薄になりがちなサイバー社会の問題点も浮き彫りになる。

彼を追い詰めるのは問題行動でサイバー犯罪課に左遷されてきたはぐれ捜査官のリックだ。アナログ人間の彼は上司にも同僚にも相手にされないが、「刑事の勘」には並外れたものがある。以前の部署で情報源にしていた小悪人がITに通じていたことから、彼を「先生」にダーク・ウェブの実態を学んでいく。

ウルブリヒトが逮捕されたころの記事を読むとリックのモデルになった捜査官は確かにいるが、こちらは名前を変えているので、キャラ脚色の幅は捜査官側の方が大きいのだろう。

デスクワーク中心のサイバー犯罪課がウルブリヒトの特定に手間取る間に、リックは独自の嗅覚と情報源から学んだワル特有の思考方法で本丸に迫っていく。

やや類型的ではあるが、実地経験に乏しくなるIT社会の弱点も強調される。

リックを演じるのは「ファースト・マン」(18年)のジェイソン・クラーク。こちらはウルブリヒトの「普通」とは対照的に個性を前面に出したアクの強さを打ち出している。

IT社会の影の部分に巧みに光を当てながら、2人を巡る登場人物も巧みに描かれる。ダレル・ブリット=ギブソンやポール・ウォルター・ハウザーといった個性的な面々が今回もいい味を出している。【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)