第97回アカデミー賞授賞式が現地時間3月2日にハリウッドで開催され、「ANORA  アノーラ」が作品賞、主演女優賞、監督賞、脚本賞、編集賞の最多5部門を受賞しました。最多13部門に名を連ねていた「エミリア・ペレス」は、トランスジェンダー俳優として初めて主演女優賞にノミネートされたカルラ・ソフィア・ガスコンの過去のSNSでの人種差別的な投稿が再浮上するスキャンダルに発展したこともあり、助演女優賞と歌曲賞の2冠に終わりました。今年も多くのサプライズがあった授賞式を振り返ります。

第97回アカデミー賞
第97回アカデミー賞

■デミ・ムーアが主演女優賞を逃すサプライズ

今年最大のサプライズは全米映画俳優組合(SAG)賞を受賞するなど「サブスタンス」で賞レースを席巻してきたデミ・ムーアが受賞を逃したことでしょう。若さと美に執着する元人気女優の狂気を怪演したムーアは、キャリア初のノミネートで初受賞が期待されながら、オスカーを手にしたのは「ANORA アノーラ」のマイキー・マディソンでした。

第97回アカデミー賞 「サブスタンス」のデミ・ムーア(ロイター)
第97回アカデミー賞 「サブスタンス」のデミ・ムーア(ロイター)
アカデミー賞主演女優賞に輝いたマイキー・マディソン(ロイター)
アカデミー賞主演女優賞に輝いたマイキー・マディソン(ロイター)

また、同じく直前に発表されたSAG賞で主演男優賞を受賞し、3度目のノミネートで初のオスカーが期待されたティモシー・シャラメも受賞を逃してファンやメディアを驚かせました。ボブ・ディランの半生を描いた「名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN」は、高い評価を受けながら無冠という結果に終わりました。ちなみに主演男優賞に輝いたのは「ブルータリスト」のエイドリアン・ブロディで、「戦場のピアニスト」(02年)に次ぐ2度目の受賞となりました。

■ゾーイ・サルダナがドミニカ系アメリカ人として初のオスカー

「エミリア・ぺレス」の演技が高く評価され、今年の賞レースをリードしてきたゾーイ・サルダナが、ガスコンのSNS投稿を巡る論争の余波で無冠に終わる可能性も取り沙汰されながらも助演女優賞を受賞。壇上で開口一番「マミー!」と泣き叫びながら観客席にいる母親に呼びかけ、「私の祖母は1961年にこの国へやってきました。私は夢と尊厳と勤勉な手を持つ誇り高き移民の子どもです。そして、私はこの賞を受賞した最初のドミニカ系アメリカ人であり、私が最後ではないと知っています」と涙ながらに語る感動的なスピーチで、拍手喝采を浴びました。

第97回アカデミー賞 「エミリア・ペレス」のゾーイ・サルダナ(ロイター)
第97回アカデミー賞 「エミリア・ペレス」のゾーイ・サルダナ(ロイター)

■シンシア・エルヴォとアリアナ・グランデの感動的パフォーマンスに会場のセレブも涙

作品賞など主要部門を含む10部門で候補入りした「ウィキッド ふたりの魔女」から主演女優賞にノミネートされたシンシア・エルヴォと助演女優賞候補のアリアナ・グランデが、圧巻のパフォーマンスを披露。真っ赤なドレスを着用したグランデが「オズの魔法使い」の主題歌「Over the Rainbow(虹の彼方に)」を熱唱した後、エルヴォが登場してミュージカル映画「ザ・ウィズ」から主演のダイアナ・ロスが歌ったバラード「Home」を披露。最後は揃って「ウィキッド ふたりの魔女」から「Defying Gravity」をデュエットし、オープニングを飾った2人の力強いライブパフォーマンスに会場のセレブたちも感動のあまり涙する場面も見られました。

アカデミー賞会場のレッドカーペットを歩くアリアナ・グランデ(ロイター)
アカデミー賞会場のレッドカーペットを歩くアリアナ・グランデ(ロイター)

■山火事の被害を受けたロサンゼルスに敬意

年明け早々にロサンゼルスを襲った大規模な山火事で甚大な被害を受け、ハリウッドも一時焼失の危機に直面していたこともあり、オープニングではロサンゼルスの名所で撮影された映画のシーンによるモンタージュが披露されました。アカデミー賞6部門を受賞した「ラ・ラ・ランド」(16年)、着せ替え人形を実写映画化した「バービー」(23年)やクエンティン・タランティーノ監督の「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」(19年)などの名シーンで幕開けした授賞式は、中盤には山火事と闘った消防隊員がステージに登場。司会を務めたコナン・オブライエンが「ヒーロー」として称える一方、「私にも言えないような勇敢なジョークを私の代わりに言ってもらいます」と話し、消防隊員がジョークを披露する演出に観客もア然となります。「家を失った方々にお見舞い申し上げます。『ジョーカー2』のプロデューサーの方々も含め」と、隊長の一人がプロンプターを読み上げ、社会現象にもなって高い評価を受けた「ジョーカー」(19年)の続編「ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ」が酷評されて大コケしたことをネタにして会場を盛り上げました。

■BLACKPINKのリサがK-POP歌手として初のパフォーマンス

ガールズグループBLACKPINKのリサが、映画「007」シリーズのスペシャルトリビュート企画に登場。ラッパーのドージャ・キャット、レイと共にステージでライブパフォーマンスを披露しました。「サブスタンス」に出演する女優マーガレット・クアリーがテーマ曲に合わせて官能的なダンスを披露した後、大胆なスリットが入った黒のドレスをまとったリサが宙から舞い降り、「007 死ぬのは奴らだ」(73年)の主題歌「Live and Let Die」を熱唱し、圧巻のパフォーマンスで観客を魅了しました。

■終了を告げる音楽を制して続けたエイドリアン・ブロディの感動的なスピーチ

22年ぶり2度目のオスカーを手にしたブロディは、予定時間を大幅にオーバーしてもスピーチをやめず話題を呼びました。持ち時間の終わりを告げる音楽が流れると、「もうすぐ終わりますので、お願いです。どうか音楽を止めて下さい。以前にも経験があるので、大丈夫です」と音楽を止めさせる驚きの行動に出たブロディ。「私は再び、戦争や組織的抑圧、反ユダヤ主義、人種差別、他者化によるトラウマや影響を訴えるために、今ここに立っています。より健全で、より幸せで、そしてより包括的な世界を信じ、祈っています。過去の歴史が私たちに教えてくれるとすれば、それは憎しみを野放しにしてはいけないという戒めだと信じています。正しいことのために闘いましょう。笑顔を絶やさず、お互いを愛し続けましょう。共に再建しましょう。ありがとう」と力強く語り、会場は拍手に包まれました。

【千歳香奈子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「ハリウッド直送便」)