60年代のカナダ。保守的な家庭の5人兄弟で、キリストと同じクリスマスに生まれた四男のザックは「特別な子」として軍で働く父と過保護気味の母のお気に入りだ。理想の息子でありたいと、同性に引かれる内心と闘うが、年を追って繕いきれなくなっていく。

ザックに限らず5人兄弟それぞれの個性は時々に波乱を起こすが、ののしり合いの末にいつの間にか家族の引力が働く。実体験を描くフランソワ・ブレ脚本の「絆」には説得力がある。

アズナブールを熱唱する父、デヴィッド・ボウイに心酔するザック…60年代音楽が、登場人物の個性にしっくり重なる。あっさりと割れてしまうアナログ盤が時代の移ろいを象徴する。

一家の悲劇を経て、父がザックの「個性」を認めるくだりにホロッとなった。

カナダ国内で特異なフランス語圏であるケベック州を舞台に、ザック役マルク=アンドレ・グロンダンを始め同州出身ばかりの俳優たちが普遍の家族関係を浮かび上がらせる。「ダラス・バイヤーズクラブ」(14年)で知られ、昨年12月に急逝したジャン=マルク・ヴァレ監督が05年に撮った映画だが、名作は色あせないことを改めて実感した。【相原斎】

(このコラムの更新は毎週日曜日です)