星組トップ礼真琴が主演し、人気スター愛月ひかるの退団公演でもある「柳生忍法帖」「モアー・ダンディズム!」は9月18日、兵庫・宝塚大劇場で開幕した。芝居では礼が隻眼の剣豪・柳生十兵衛にふんし、愛月は年齢不詳で妖艶な美を放つ芦名銅伯を熱演。愛月は、ショーではあこがれだったという白の軍服姿でのダンスも披露した。宝塚は11月1日まで、東京宝塚劇場は11月20日~12月26日。

柳生十兵衛にふんしたトップ礼真琴(左橋)と、トップ娘役舞空瞳(中央)2番手スター愛月ひかる(撮影・村上久美子)
柳生十兵衛にふんしたトップ礼真琴(左橋)と、トップ娘役舞空瞳(中央)2番手スター愛月ひかる(撮影・村上久美子)

剣の腕はめっぽう強く、弱者への優しい目で、権力に立ち向かう。永遠のヒーロー像を隻眼剣士に重ねた柳生十兵衛。巧みな芝居運びに、卓越したダンサーらしいしなやかな殺陣で、礼が宝塚ならではの柳生十兵衛像を表現している。

ショーでは持ち前のダンスのスキル、表現力をいかんなく発揮し、ロマンチック・レビューシリーズの岡田敬二氏による「ダンディズム」第3弾でセンターに立つ。宝塚レビューの王道作で、岡田氏が肝にすえる「陶酔」へとファンを引き込む。

緊急事態宣言は明けぬまま。コロナ禍での上演が続き、礼は、開幕前に「まずは初日の幕が無事に開いて、千秋楽まで駆け抜けられること、自分たちも最善を尽くして取り組みたい」と誓い、初日を迎えた。

左目を封じての殺陣も披露した星組トップ礼真琴(撮影・村上久美子)
左目を封じての殺陣も披露した星組トップ礼真琴(撮影・村上久美子)

芝居で演じる今作の十兵衛は、敵討ちを誓う女性たちを悲願成就へと導く指南役。稽古場では「先生」と呼ばれていたことも明かし「先生と初めて呼ばれる気持ちよさ、感じております」とジョークもまじえて話していた。

宝塚音楽学校時代から首席で、歌、ダンス、芝居とすべてに高い技量を誇る。その礼を専科から星組へ移って支えてきた2年先輩の愛月が、今作で退団する。ショーでは愛月の歌で踊る場面もある。「毎回、胸いっぱいで…。自分が愛さんの最後、ご一緒させていただけることは幸せ。大切に踊りたい」とも言い、寂しさを封じて臨んでいる。

赤で統一した衣装で組メンバーを率いて踊る礼真琴(撮影・村上久美子)
赤で統一した衣装で組メンバーを率いて踊る礼真琴(撮影・村上久美子)

退団公演になる愛月は、敵役の芦名銅伯を“怪演”。芦名一族の再興を期す設定で、個性的な役柄が続く愛月は、年齢不詳の妖艶さを披露。愛月も、稽古中の取材で礼に対し「何も努力してなくても、さらっと、何でも器用にできちゃうように見えてしまっていても、ほんとに、陰で誰よりも努力している。すごく尊敬している」と語っていた。

白い軍服姿で、指先まで神経を研ぎ澄ませ臨んだ愛月ひかる(撮影・村上久美子)
白い軍服姿で、指先まで神経を研ぎ澄ませ臨んだ愛月ひかる(撮影・村上久美子)

その愛月はショーで、真っ白な軍服に身を包み、ダンディズム、男役の美学を体現し、後輩へ背を見せ退く。信頼しあうトップと2番手が組む最後の公演が幕を開けた。【村上久美子】

◆宝塚剣豪秘録「柳生忍法帖」(脚本・演出=大野拓史) 山田風太郎の小説「柳生忍法帖」が原作。会津藩主・加藤明成は、出奔した家老・堀主水を断罪。東慶寺にかくまわれた堀一族の女性たちの制圧ももくろむが、天樹院(千姫)は「女の手で誅を下す」。指南役に柳生十兵衛を招く。

華やかなレビューも披露した(左から)星組スター瀬央ゆりあ、トップ娘役舞空瞳、トップ礼真琴、2番手スター愛月ひかる(撮影・村上久美子)
華やかなレビューも披露した(左から)星組スター瀬央ゆりあ、トップ娘役舞空瞳、トップ礼真琴、2番手スター愛月ひかる(撮影・村上久美子)

◆ロマンチック・レビュー「モアー・ダンディズム!」(作・演出=岡田敬二) 男役の美学を追求する「ダンディズム」シリーズ第3弾。95年花組で真矢みき(当時)、06年星組で湖月わたるが主演した。