映画製作。過去に国際映画祭(といっても日本で開催)に参加した際、海外の監督と接する機会があり、どうして映画を製作しているか? の話になった。日本だとハリウッド映画の影響などから、人々を楽しませたいと答える人が多いと感じるが、海外の監督たちは違い、『今、自分たちの国で起きていることを映画を通して世界中の人に知ってもらいたい』と熱く語っていた。

もちろんエンタメ性も加味してとのことだが、正直そこまで明確に意識して作品作りをしていなかったこともあり、少しだけ恥ずかしく思った。今では、是枝監督はじめ、社会派映画も多くなりつつあるが、平和な日本ではまだまだエンタメ作品が主流なのではないかと感じる。

そこで今回はドラマ「17歳の帝国」のことを紹介したい。舞台は202X年。世界から斜陽国の烙印(らくいん)を押され、出口のない中、退廃した都市の統治をおこなう実験プロジェクトが始まる。統治を行うのはAI、そしてそのAIが選んだ高校生をはじめとした若者たち。若者の経験不足をAIで補い、地方都市を生まれ変わらせていく。

いわゆるSF作品だが、202Xとうたっているように、そう遠くない未来であり、出てくる登場人物たちは今とまったく変わらない。脚本は数々のアニメ作品を手掛けている吉田玲子。物語は、忖度(そんたく)まみれの大人vs AI(&若者)の図式で進んでいく。

特筆すべきはそのディテールの細かさ。全住民に提供されている眼鏡をかけることでさまざまな情報が得られ、また、新しく政策を始める際には幸せ度が何%上昇するのかをAIが提案するなど、ファミレスでロボットが配膳する今、そう遠くない未来なのかもしれないと毎回ワクワクさせられる。今年から18歳で成人になることが施行されたこともあり、若者により注目される政治を背景にとても意欲的な作品に仕上がっているのではないかと思う。

そこで今回取り上げたいのは高校生総理・真木(神尾楓珠)をサポートするサチを演じる山田杏奈(21)。モデルを経て子役としてドラマデビューし、21歳にして主演作品含めて相当数に出演。作品数だけみても同世代ではトップクラスの女優だとわかる。最近では、映画「屍人荘の殺人」や、ドラマ「珈琲いかがでしょう」で印象のある役を演じていた。

さらに今クールでは木村拓哉主演のドラマ「未来への10カウント」でボクシング部において唯一の女子選手を演じている。彼女の特徴としては、その豊かな表情と確かな演技力があげられるが、どこか二次元から出てきたかのようなそのしぐさにも注目して欲しい。

「17歳の帝国」では、感情が一定でどこかそっけない態度の真木に対し“てけてけ”とついていくその姿がとても愛らしい。脚本家はじめ、アニメから実写に人材が流れる中、彼女のような二次元から出てきたかのような演技ができる俳優は重宝されるのではないかと思う。漫画やアニメ原作が多くなる中、彼女がさらに活躍する姿が想像できる。もちろんリアリティーのある演技も素晴らしいので、今後の活躍に大いに期待です。(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画監督・谷健二の俳優研究所」)

◆谷健二(たに・けんじ)1976年(昭51)、京都府出身。大学でデザインを専攻後、映画の世界を夢見て上京。多数の自主映画に携わる。その後、広告代理店に勤め、約9年間自動車会社のウェブマーケティングを担当。14年に映画「リュウセイ」の監督を機にフリーに。映画以外にもCMやドラマ、舞台演出に映画本の出版など多岐にわたって活動中。今年は2月に演出舞台「政見放送」が上演。5月20日から最新監督映画「さよならグッド・バイ」が公開中。カレー好きが高じて青山でカレー&バーも経営している。