テレビ朝日の4月改編で、6本の人気バラエティーが深夜とゴールデンタイムを入れ替わる大胆な編成があった。「ゴールデン進出」も「深夜への出戻り」も、ひと昔前とは比較にならないほどカジュアルになっている。他局でもこの流れは同じ。背景には、動画配信とSNS時代で出現した“第2のゴールデンタイム”という考え方と、タイムスポンサーがつかない営業上の変化がある。

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テレ朝4月改編では、深夜からゴールデン(午後7時~10時)、プライム(午後7時~11時)に3本の番組が進出する。

◆「10万円でできるかな」(月曜8時/Kis-My-Ft2、サンドウィッチマン)

◆「ザワつく!金曜日」(金曜8時57分/石原良純、長嶋一茂、高嶋ちさ子)

◆「激レアさんを連れてきた。」(土曜10時10分/若林正恭、弘中綾香アナ)

一方、番組復活を含め、ゴールデンから深夜枠に戻るのは以下の3番組。

◆「陸海空 こんなところでヤバイバル」(月曜11時20分)

◆「しくじり先生 俺みたいになるな!!」(月曜深夜0時20分)

◆「ロンドンハーツ」(火曜11時20分)

特に「陸海空」は、2年の間に火曜深夜→土曜10時→月曜深夜、と目まぐるしい引っ越しぶり。2年前に月曜8時枠での放送を終えた「しくじり先生」も、深夜に戻っての番組復活となる。

赤津一彦編成部長は、6番組の新編成について「ゴールデン進出とか撤退とかではなく、入れ替え」とし「昔ほど、肩に力を入れて『ゴールデン進出です』という時代ではなくなったし、深夜帯に戻すことが降格という価値観でもない」と話す。

背景には、ここ数年で新たなビジネス展開として重要度が増した動画配信サービスやSNSなどとのデジタル施策がある。AbemaTVとの連動企画で若者層を取り込んでいく戦略だ。赤津氏は「Abemaのゴールデンタイムは23時の手前あたりから。テレビしかない時代はゴールデンに進出して失敗したら終わりだったが、ネットのゴールデンタイムという新しい魅力がある今は、連動しやすくパワーアップしてテレビとネットを循環させるコンテンツになり得る。ゴールデンも深夜も、いろいろ試してみていい」と話す。

テレ朝に限らず、ゴールデン進出や枠移動はここ数年の各局の定番手法になっている。頻度、覚悟ともにどんどんカジュアル化している背景には、営業上の変化も大きい。民放の中堅営業マンが指摘するのは「タイムスポンサーの激減」だ。

タイムスポンサーとは、その番組のスポンサーとして枠の広告料を買ってくれる広告主のこと。番組の冒頭やエンディングで「この番組の提供は…」と企業名がクレジットされる。「巨額の広告料を6カ月分買ってくれる重要なお客さま。昔のゴールデン番組には3~4社くらいいた。番組内容と、その時間に集まるターゲット層への広告効果をねらってスポンサードしているわけで、契約とは違う放送時間への枠移動や、裏環境が変わる曜日へのスライドなど考えられなかった」。

しかし、CMを届けたい若者層や子育て世代の視聴率が目減りしている現在は「ゴールデンもタイムスポンサーがいない時間帯が多くなった」。特に番組を決めず、いろいろなところに分散してCMを打つスポット契約が多くなっている。「枠移動のハードルが低くなったのも、隔週で2時間スペシャルなどの変則放送が多いのもそのため。もっと言えば、1つの番組が終わる重みも変わってきた。すぐ復活するかもしれないから、新聞のラテ欄に『終』マークをつけないでほしいというプロデューサーもいる」。

引っ越しや入れ替えがめまぐるしいのと、そもそも各番組が何曜何時がデフォルトなのかが分かりづらいのとで、最近の民放改編説明会は記者たちも前回、前々回のタイムテーブルを持参して照らし合わせないと何が何だか分からない状況。あるテレビマンは「改編率をどう計算するかも難しくなり、いずれ発表されなくなるかも」。あながち極論ではない気もする。

【梅田恵子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能記者コラム「梅ちゃんねる」)