4月スタートの春ドラマが出そろった。オリジナル作品多め、ラブストーリー多めの意欲的な春だ。「勝手にドラマ評」46弾。今回も単なるドラマおたくの立場から、勝手な好みであれこれ言い、★をつけてみた(深夜枠、シリーズものは除く)。

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月9ドラマ「イチケイのカラス」(C)フジテレビ
月9ドラマ「イチケイのカラス」(C)フジテレビ

◆「イチケイのカラス」(フジテレビ、月曜9時)竹野内豊/黒木華

★★★★☆

裁判官のリーガルドラマは新鮮。竹野内豊のとぼけた敏腕と黒木華の堅物エリートがしっかりはまり、お仕事ドラマと被告の人間ドラマが絶妙なバランスで展開中。裁判所主導の再調査という「職権発動」で裁判官に動きがあるのも新しく、秒を争う勾引状リレーも心躍った。黒木華の滑舌のいい声は法廷向き。速射砲な物言いに嫌みがなく、この人目線で主人公「入間みちお」の大岡裁きを堪能できる。被告が晴れ晴れと収監される1話、真犯人がギャフンの2話など後味もカラフル。「カラスになれ」。C調な主人公の本気の言葉にお仕事ドラマの神髄があったので、4話で変なラブをにおわせてきたのはありがた迷惑。

ドラマプレミア23「珈琲いかがでしょう」(C)テレビ東京
ドラマプレミア23「珈琲いかがでしょう」(C)テレビ東京

◆「珈琲いかがでしょう」(テレビ東京、月曜11時6分)中村倫也/夏帆/磯村勇斗

★★★★★

1杯のコーヒーから始まる人間模様。移動カフェの店主、青山(中村倫也)がいれる“あなただけのコーヒー”が客の人生とリンクし、30分2本立てですてきな読後感。不器用OLと青山のこだわりコーヒーが響き合う「人情珈琲」(夏帆)、画家の人生が古いエスプレッソマシンとともに再始動する「だめになった珈琲」(臼田あさ美)、コーヒーのお酒があけみママのほろ苦い人生そのものだった「金魚珈琲」(滝藤賢一)など、30分1ゲストの連作短編が月曜11時枠に合う。中村倫也ははまり役。ゆるふわ男子ぶりと、過去のバイオレンス人生とのギャップが巧み。主人公を追う裏社会の磯村勇斗との展開も楽しみ。

連続ドラマ「大豆田とわ子と三人の元夫」(C)フジテレビ
連続ドラマ「大豆田とわ子と三人の元夫」(C)フジテレビ

◆「大豆田とわ子と三人の元夫」(フジテレビ、火曜9時)松たか子/岡田将生/角田晃広/松田龍平

★★★☆☆

良くも悪くもクセがすごい。バツ3ヒロイン大豆田とわ子と、今も未練がある3人の元夫がそれぞれの幸せを探す。モテすぎ、器小さすぎ、理屈っぽすぎ。3人の元夫のこじらせキャラを松田龍平、角田晃広、岡田将生が絶妙なうっとうしさで演じ、離婚して分かった4人の魅力が新たな嵐を呼ぶ。「人のうそを補完し始めたらだまされている証拠」「お正月って要ると思う?」。名言と逆張り論争の坂元裕二ワールドが5割増し。どうだ、というせりふ過多と、伊藤沙莉が映画弁士の節回しでナレーションしまくる説明過多で、余韻や行間のない作風は疲れた。信者向け強め。視聴率が5%台に。

◆「着飾る恋には理由があって」(TBS、火曜10時)川口春奈/横浜流星

★★☆☆☆

SNS命の着飾りガールと、モノを持たないミニマリストの恋。社長のネクタイを結ぶ日課など1話から韓国ドラマ「キム秘書はいったいなぜ」の名物シーンごっそりで、尊敬する制作陣だけにいきなりショック。2人の恋に特にカセもなく、「好きです」で終わる話を壁ドンや腕グイで何とかする野武士のような戦い方。シェアハウス/ミニマリスト/インフルエンサー/お姫様抱っこ/男性陣が何かとヒロインをベタベタ触るなど、せりふ通り「SNSで拡散してもらう」ためのドラマなら狙いは成功している。「ケータイの中には答えはないね。桜の木の下でその人をよく見て」は現時点で今期ドラマ界最高のせりふ。

水曜ドラマ「恋はDeepに」(C)NTV
水曜ドラマ「恋はDeepに」(C)NTV

◆「恋はDeepに」(日本テレビ、水曜10時)石原さとみ/綾野剛

★★★★☆

海洋学者とリゾート開発の御曹司の恋。1話の手際が悪くてもったいない。石原さとみは海を守るために来た人魚かも、というアリエル視点で見る2話から急に物語になってきた。不思議ちゃんな言動にもきちんと意味があり、“残された時間”でのけなげな奮闘に応援しがいがある。「捜し物を」「海の広さ分かってます?」。笑いの中にきちんと人物の魅力がにじむ「おっさんずラブ」徳尾浩司の脚本。御曹司3兄弟のもどかしい対立もうまくからみ、恋というよりかけがえのない同志になっていく方向で見応えがある。石原さとみの正体や泡になるのかはさておき、ラストは切なそう。先が読めず来週もこの2人に会いたくなる。

テレビ朝日木曜ドラマ「桜の塔」
テレビ朝日木曜ドラマ「桜の塔」

◆「桜の塔」(テレビ朝日、木曜9時)玉木宏/広末涼子

★★☆☆☆

警察出世バトル。「白い巨塔」の警察版的なイメージ。権力の亡者になった「幼少期のある出来事」がよく分からないので、悪党をそそのかして事件を作って逮捕というダークな手柄のあげ方が唐突に感じた。主人公が警視総監を目指すのではなく、「まず自分の上司を警視総監に」という回りくどさも応援しがいがない。亡きお父さんを思い、勤務中もアルコールが欠かせない依存症設定のおまけつき。「悪魔に魂を売る」とか「上を目指すには犠牲をともなう」とか、出世に燃えていることは確か。東大閥、九州閥、外様閥など、派閥と人事が好物な人にはおすすめ。

木曜劇場「レンアイ漫画家」(C)フジテレビ
木曜劇場「レンアイ漫画家」(C)フジテレビ

◆「レンアイ漫画家」(フジテレビ、木曜10時)鈴木亮平/吉岡里穂

★★☆☆☆

ネタに行き詰まった恋愛漫画家と、報酬100万円で恋愛代行を引き受けた無職女子のラブコメ。引きこもりも恋愛漫画家もイメージではない鈴木亮平と、コケたりお茶こぼしたりといつものドジッ子印の吉岡里穂の異色タッグがかみ合わない。「次はこいつと付き合ってこい」「優しい人でした!」「別れてこい」。ネタのためいい人をだます悪趣味は笑いで正当化できるものではなく、視聴率も虫の息。嫌々引き取った兄の子、レン君のけなげさが作品の救い。無理なラブコメより、鈴木亮平とレン君の令和版「パパと呼ばないで」の方が染みる。夕焼けの河川敷を3人で歩くシルエットが美しかっただけに。

金曜ドラマ「リコカツ」(C)TBS
金曜ドラマ「リコカツ」(C)TBS

◆「リコカツ」(TBS、金曜10時)北川景子/永山瑛太

★★★★☆

交際ゼロ日婚で早くも離婚危機。瑛太が自衛隊一家の堅物キャラでコメディー力を全開放しており、妻を倒立腕立てで待つド変人ぶりにげらげら笑う。高倉健すぎる口調、歌舞伎すぎる顔芸、「家訓を唱和しろ」「妻は夫を支えろ」の古いカルチャー。あえてのやりすぎ感も北川景子を通すと極上のコメディーになる不思議。この人がいると画面に格調が出る。それぞれの両親のリコカツも同時進行。さまざまな夫婦の形に学びながら、2人が互いの良さを見つけていく過程に応援しがいがある。「私たち離婚するのに」「まだ、君の夫だ」。毎週これで胸キュンに連れて行ってくれる脚本と役者の力。

土曜ドラマ「コントが始まる」(C)NTV
土曜ドラマ「コントが始まる」(C)NTV

◆「コントが始まる」(日本テレビ、土曜10時)菅田将暉/有村架純/神木隆之介/仲野太賀

★★★★★

10年売れず、解散を決めたコントトリオ「マクベス」の青春群像劇。高校時代の結成シーンに三者三様の真実があり、今になってちょっとした波乱と成長を生む脚本金子茂樹の作家性が生き生き。青春の終わりな28歳の空気感に、93年生まれの菅田将暉、神木隆之介、仲野太賀の神キャスティングがドはまり。金子茂樹にしか書けない会話劇に体温が乗り、彼らの笑いと涙がしみじみと突き刺さる。同じく28歳有村架純のおせっかいキャラが頼りになり、トリオ再生のキーパーソンとして輝く。冒頭のコントが物語とリンクし、トリオの成長が反映される着地もあざやか。いい脚本、演出、キャストがそろうとドラマは本当に楽しい。

日曜劇場「ドラゴン桜」(C)TBS
日曜劇場「ドラゴン桜」(C)TBS

◆「ドラゴン桜」(TBS、日曜9時)阿部寛/長澤まさみ

★★★☆☆

「バカとブスこそ東大へ行け!」の16年ぶりの続編。金曜ドラマ枠でアツい学園青春ドラマをやっていた前作と違い、正義が悪を懲らしめる日曜劇場テイストに魔改造されてしまった。内外の敵が手ごわそうで、肝心の生徒が埋もれた1話。ネット時代の卑劣な生徒をおじさんが成敗、みたいな方向性にSNS上が「これじゃない」の悲鳴。山下智久、長澤まさみ、小池徹平、新垣結衣ら、今思えばすごい豪華メンバーがしっかり友情と成長を紡いだ05年版がしみじみと尊い。「自由を尊重することと甘やかすことは違う」。痛快なせりふや令和の受験テクには興味があるので、生徒と異色弁護士の原点の方でアップデートを期待。

日曜トラマ「ネメシス」(C)NTV
日曜トラマ「ネメシス」(C)NTV

◆「ネメシス」(日本テレビ、日曜10時半)広瀬すず/櫻井翔/江口洋介

★★★☆☆

ポンコツ探偵(櫻井翔)と天才助手(広瀬すず)の謎解き。広瀬すずのコナン君な造形や、なんちゃって「探偵物語」の所長、「あぶデカ」コンビのおバカ感など話題作り先行で、本来の“人気推理作家5人が脚本協力”というセールスポイントが見えにくいのは残念。突然のラップや動物ものまねシリーズなど、船頭の多さにプロデューサーのコントロールが追いついていない印象。2話の道具屋登場でポンコツ探偵の人脈という才能が明らかになり、互いにないものを補うバディ感は出てきた。理系大学生、AI開発者など1話ごとに仲間が増えていく設定なので、もう少し見てみたい。

【梅田恵子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能記者コラム「梅ちゃんねる」)