俳優佐野勇斗(21)主演映画「小さな恋の歌」(橋本光二郎監督)が公開された。公開記念舞台あいさつを取材に行ったが、そこには佐野を始め、森永悠希(22)山田杏奈(18)真栄田郷敦(19)鈴木仁(20)トミコクレア(18)橋本監督(46)が出席した。

同作はMONGOL800(モンパチ)の同名曲からインスパイアされて産声を上げた。沖縄を舞台に、バンドに青春をかけた高校生の青春物語だが、沖縄という土地柄、米軍基地問題を絡めることで単なる青春映画とは一線を画する作品となっている。

バンドものということで、過去にドラム経験のある自分にとっては、“青春時代”を思い出させてくれる作品でもあった。公開前イベントでは実際に「小さな恋のうたバンド」として演奏も披露していた。同イベントも取材したが、その際「ドラムの森永君以外はみんな映画のために楽器を持った」と聞き、実際の演奏を聞き驚いたのを鮮明に覚えている。

公開記念舞台あいさつでは、楽器特訓の話題で盛り上がった。そんな中、サプライズで楽器指導にあたった講師陣「コーシーズ」を代表し、モンパチサポートメンバー宮内陽輔からサプライズで手紙が読み上げられた。すると、それまで明るく盛り上がっていたメンバーの雰囲気が一転し、しんみりとした雰囲気になったのを感じた。あらためてメンバーを見ると、佐野は口を真一文字に結び一点を見つめていた。山田、真栄田も感慨深げな表情を浮かべていた。

コメントを求められた佐野は「やばいっすね。陽輔さんはすごい大きな存在で…。なんか陽輔さんがいるからこそ…すごい…頑張ろうと思えたし…ぶつかったこともあったし…」と言葉を詰まらせると、号泣した。

そのままフォトセッションの予定だったが、あまりの涙にメーク直しのために1度降壇するほどだった。降壇時に自分の前を佐野が通り過ぎる際、「ちくしょう」とつぶやいた。これは「泣いてしまった自分へのもの」と理解したが、その涙こそ彼が本気で取り組んでいた証しだろう。イベント終了後関係者に「佐野君、泣いていましたね」と話すと、「素直でいい子なんです」との答えだった。

自分はもはや50歳のおじさんだが、この10年ほど、若者の間では「熱くなることがダサい」という風潮があることを耳にしている。周りの空気を読むあまり、熱くなって自分の意見を言ったり、自分が熱中するものを熱く語ることは、自分が若かった時代に比べると確かに減っているように感じる。だが、その“熱量”こそが人を動かし、感動を与えるものだと信じている。

佐野をはじめキャスト陣の楽器に対する熱量、映画に対する熱量、ひいては仕事に対する熱量を感じさせるエピソードとなった。その熱量はスクリーンを通じて見る人の心を動かすに違いない。【川田和博】