藤原季節(29)と長尾卓磨(40)が4日、東京・シネクイントで行われた主演映画「中村屋酒店の兄弟」(白磯大知監督)初日舞台あいさつで、劇場公開できたことに感無量の思いを口にした。

「中村屋酒店の兄弟」は、和歌山県田辺市で2007年(平19)にスタートした、新人監督の登竜門として知られる「田辺・弁慶映画祭」で、TBSラジオ賞を受賞した。数年前に家を出て1人、東京で暮らす和馬が、親が経営していた酒屋を継いだ兄、弘文の元へ帰ってきたものの、久々に訪れた実家は昔のままの懐かしさがある中にも、確実に変わってしまったものがあることに気付く物語。

劇中で和馬を演じた藤原は「こんな、きれいな服を着て、シネクイントの舞台に立っていますけど…こんな日が来ると思わなかった」と感慨深げに口にした。その上で撮影を振り返り「髪の毛(のセットを)自分でやって、私服で出て…。最初、メールでお話をいただいて断った。対面して、やらせていただきたいと…。今は、この映画に参加させていただいたのは、幸運」と振り返った。

和馬の兄弘文を演じた長尾は「実際の酒屋さんで撮らせていただいた。お酒に囲まれると和やか…他の人は違うのかな?」と笑みを浮かべた。そして満員の客席に視線を送り「満席の観客の皆さんの、お顔を見ると泣きそうでドキドキ皆さんの記憶が、この映画でよみがえる瞬間があったらうれしい」と感無量の様子だった。

撮影は東京・赤羽で閉店してしまった実在の酒店が、まだ営業している頃に撮影した。22歳で、今作を手掛けた白磯監督は「22歳で撮った。ガムシャラに脚本を映像化にしていただけた。まず、映画がどう作られているんだろうと知るところから始めた。酒屋で撮って、お客さんが来たら『お騒がせします』と」と撮影を振り返った。

藤原は撮影中の思い出を聞かれると「やっぱり、酒屋さんのご主人と奥さんと話している時に『店をたたもうと思っている』という衝撃の事実を、僕が最初に聞くという」と、撮影中に酒店の主人から閉店すると明かされたと振り返った。その上で「白磯くんに『おい、あの酒屋、なくなるらしいぞ』と言ったら『本当に?』って感じ」とも語り「映画のオファーを引き受けたのも、少しでも、この酒屋の姿が残れば良いね、というのもあった」と酒店の姿にも、ひかれたと語った。

そして、映画への熱い思いを吐露した。

「劇場公開に向けた映画の撮影が、どんどん中止…満席を見るとうれしい。僕は、映画館で自分と離れたところ…人の気持ち…戦争のこと、恋愛のこと、震災のこと、LGBTQ、いじめ、虐待。いろいろなことを何とか、自分に近づけて見てきた」

「この映画は、やっぱり家族の映画だなって思って。僕は家族の誰かとサシで、二人っきりで飲んだことないな…そんなこと出来るのかなと思うんですけど。自分に物語を引き寄せて楽しんでもらえたら」

そして、最後に「もっと、たくさん、いろいろな今を切り取る映画が誕生することを、本当に願っています。普通の暮らしをするのも、恐れずに、諦めずに、今までと同じ生活をするのも抵抗になるのかなと」と、コロナ禍における生活についても持論を展開した。【村上幸将】