柴咲コウ(42)が、フランス、日本共同製作の映画「蛇の道」に主演したことが27日、分かった。
全編、フランス語での演技を求められ、撮影の半年前からレッスンを行い基礎から習得を徹底。23年4~5月までパリと近郊で行った撮影中も発音に改善を加え、フランス人の製作スタッフもうなるほどのレベルで演じきった。フランスでの公開も決定し、20年にベネチア映画祭で銀獅子賞(監督賞)を受賞した黒沢清監督(68)とのタッグで、カンヌ映画祭(フランス)含めた世界3大映画祭の出品を目指す。
パリ市内を闊歩(かっぽ)する柴咲の口から、よどみなくフランス語があふれ出た。芝居を交わすダブル主演のダミアン・ボナール(45)は、19年の主演映画「レ・ミゼラブル」がカンヌ映画祭審査員賞を受賞し、米アカデミー賞国際長編映画賞にノミネートされたフランスのトップ俳優。娘を殺した犯人を追う父と協力する医師との、緊迫感漂う会話のシーンに言葉の壁はない。
「蛇の道」は、15年にカンヌ映画祭ある視点部門監督賞受賞などフランスと縁の深い黒沢監督が、98年に製作した同名オリジナル・ビデオ作品が原作。同監督が再映画化に加え、フランスで再び映画を撮りたいと熱望していることを、KADOKAWAがフランスの製作会社CINEFRANCEに伝え、フランスでのリメークが実現した。
製作側は、フランス語が話せるかということより、パリ在住の心療内科医という専門性が高く、セリフ含め難易度の高い主人公の新島小夜子という役に、時間と労力をかけてチャレンジしてくれる俳優として柴咲に白羽の矢を立てた。柴咲は「なぜ私なのだろう? フランス語も話せないのに? と思いましたし、そのことは黒沢清監督とプロデューサーにお会いした際にお伝えしました」とオファーに当初、戸惑いもあったという。それでも「単純に黒沢清監督とお仕事したかったこと、それにプラスしてフランスや仏語に魅力を感じ、ずっと深く触れたかったという個人的な理由も絡み、前のめりでお引き受け致しました」と、かなり早い段階でオファーを受けた。
そして、撮影の半年ほど前からフランス語のレッスンを日本で受けた。「当然、せりふ中心ですが、あまりに基礎的なところは飛ばすとどうにも応用が利きませんから、基礎的なところも含めつつ進行してもらいました」と、単にせりふを覚えるのではなく言語の基礎的な部分から積み上げた。その結果、柴咲のフランス語は、撮影前の脚本の読み合わせで初めてセリフを言った段階から、フランスのスタッフが「柴咲さんのフランス語は思った以上にいいね」と感心するほどのレベルに上達した。
さらに、2カ月強に及んだ撮影期間はホテルに宿泊せず、キッチン付きのアパートを要望した。「自分で食べるものの用意ができたのと、まるで役そのもののようにフランスで生活している人として街に溶け込めた気がしたのは良かったです」と、日々の生活からフランスに染まった。
撮影中も「監督からは発音に関してはそんなに完璧は求めていないと事前に言われましたが、観客の方が聴いて違和感のないように、と改善を努めました」と、発音に繰り返し修整を加えた。柴咲は「私自身はとにかく夢中で撮影のみに専念していました。苦労をあげればキリがありませんが『楽しく毎日撮影する』という目標は達成できました。録音部のフランソワからダメ出しされないときには『よしっ!』とガッツポーズしてました」と笑いながら振り返った。
黒沢監督は「26年前にオリジナル・ビデオ作品として脚本家・高橋洋に書いてもらった脚本は、徹底的に復讐(ふくしゅう)していく物語なのですが、これが非常によくできていて、チャンスがあればもう一度映画化したいとずっと願っていました」と前作について説明。「それがひょんなきっかけでフランス映画としてリメークできたことは幸運という他ありません」と、リメークの実現に感謝した。その上で「それ以上の幸運は何と言っても柴咲コウさんの参加でしょう。本当に素晴らしい女優でした。彼女の鋭く妖しいまなざしと、野獣のような身のこなしが、この映画をオリジナル版にもましてミステリアスで深みのある作品に格上げしてくれました」と柴咲を絶賛した。
娘の復讐(ふくしゅう)に燃えるアルベール・バシュレを演じたボナールは「黒沢清監督の次回作に参加させていただけることを大変、光栄に思い、また、彼が私にアルベール役を任せてくださったことに、とても感動しました。この作品をご一緒できたことは私にとって非常に豊かな経験となりました」と黒沢監督の新作への出演を喜んだ。柴咲との共演についても「柴咲コウさんと一緒にこの冒険を経験できたこと、彼女と一緒に1000もの顔を持つこの探求に飛び込むことができたことは大きな喜びでした。復讐(ふくしゅう)、痛み、狂気、幽霊、消失、祟りが入り交じる迷宮のような世界。この映画が日本で上映されるのが待ちきれませんし、皆さんと共有できるのをとても楽しみにしています」と特別なものであったことを示唆した。
黒沢監督が「僕のこれまでのキャリアの中で最高傑作ができたかもしれない」と手応えを口にすれば、柴咲も「外国語でお芝居をすることの難しさ、そしてそれを上回る楽しさを教えてくださいました」と、特別な作品であると示唆した。新たな“黄金タッグ”が、日本映画の世界への扉を開く。
◆「蛇の道」8歳の愛娘を何者かによって殺された父、アルベール・バシュレ(ダミアン・ボナール)は偶然、出会った精神科医の新島小夜子(柴咲コウ)の協力を得て、犯人を突き止め復讐(ふくしゅう)することを生きがいに「必ずこの手で犯人に報いを」と殺意を燃やす。とある財団の関係者たちを2人で拉致していく中で「誰に、なぜ、娘は殺されたのか」という真相が次第に明らかになっていく。原作となった98年の作品では、幼い娘を殺された父・宮下辰雄を香川照之、宮下に協力する塾講師・新島直巳を哀川翔が演じた。



