作詞家の悠木圭子(ゆうき・けいこ)さん(本名・藤田佳子=ふじた・よしこ)が、3月3日に誤嚥(ごえん)性肺炎のため都内の病院で亡くなった。90歳だった。葬儀・告別式は近親者で執り行った。

夫で作曲家の鈴木淳さん(本名・藤田順二郎、21年12月9日死去、享年87)とのコンビで、八代亜紀さんがNHK紅白歌合戦に初出場を果たした出世作「なみだ恋」(73年)など数々のヒット曲を生んだ。

♪夜の新宿 裏通り 肩を寄せ合う 通り雨(「なみだ恋」)

わずか2行で、人目を忍ぶ男女の後ろ姿の映像が浮かぶ歌い出しである。

悠木さんは、元女優だった。芸名は「藤田佳子」。50年代から70年代初頭まで映画、舞台、テレビで活躍した。

多忙で体調を崩し、1カ月入院した。その間、詩を書きためていた。同郷(山口県防府市)の友人で、後に夫となる鈴木淳さんが見舞いに来た。詩を見せると、曲をつけてくれた。

それが悠木さんの作詞家デビュー作「さよならがこわいの」(69年、小川知子)だった。

♪お別れの口づけが なぜか今夜は冷たくて…

雨の中、背を向けて帰っていく男性と二度と会えないのでは、という不安を感じさせる歌い出しだ。

悠木さんに作詞家になった動機を聞いたことがある。

「いろんな役を演じてきて、歌でドラマを作ってみたいと思ったの。言葉からではなく、季節や場所、登場人物の境遇や関係などを考えて、ドラマとして(歌詞を)書くんです」

八代さんの名曲「ともしび」は、婚約者の余命を聞かされた女性が、自分に何ができるのかと葛藤する悲しい歌である。

実は女優時代に、舞台公演中で、母危篤という連絡を受けながら、間に合わなかった実体験を基にして、作詞した。

結婚式を間近に控えた恋人同士に設定を置き換えてはいるが、ドラマのヒロインは悠木さんだった。

悠木さんの歌詞は、女優として映像の中で得た経験が生かされている。

♪湯ぶねにからだを 沈めても 心は寒く 身は細る(香西かおり「浮雲」)

愛する人を忘れるための女ひとり旅のワンシーンが目に浮かぶ。

鈴木さんと悠木さんが育てた田川寿美のデビュー作「女…ひとり旅」も、いつか北の町に行こうと旅行ガイドを楽しそうに見ていたのに、独りで旅することとなった女心を歌った。

♪途中下車したこの駅も あの日の本に出ています

寒く寂しい駅のホームに降り立った女性の心情が、モノクロ映像となって胸に迫って来る。

遺作は「思い出通り」(23年)。大切な人を亡くした、残された者の普遍的な心情を書いた。歌詞を手渡された八代さんが作曲し、歌唱した。もちろん公私に二人三脚で歩んだ鈴木さんをしのんだ歌でもある。

♪あなたに逢える 気がする 何時かはきっと…いつかきっと

「何時かはきっと…」の願望から、「いつかきっと」の確信に変わる。その歌詞通りに、悠木さんは鈴木さんと再会を果たしていることだろう。【笹森文彦】