ライブの魅力は「その場に行ってみて、初めて分かる楽しさ」にある。4月26日、大阪・天満天神繁昌亭で行われた6代桂文枝独演会では、ちょっとしたサプライズに出会えた。

主役はもちろん、上方落語界のスーパースター、文枝である。長きにわたって「MBSヤングタウン」「ヤングおー!おー!」「新婚さんいらっしゃい!」などのテレビ、ラジオで活躍し、その一方では精力的に創作落語を世に送り出してきた。

この日の独演会には、初めて見るフレッシュな若手がトップバッターとして登場。その名は、桂にこにこ文(かつら・にこにこぶん)。客席のほとんどにとって初めて見る顔だった。それもそのはず、まだ16歳の女流噺家(はなしか)。昨年、15歳で弟子入りし、文枝の下で目下修行中。今月11日に初舞台を経験したばかり、ぴかぴかのルーキーだ。

ピンク色の着物で舞台に現れると、客席から「まあ、かわいい」とため息がもれた。演じたのは師匠の作「僕たちヒローキッズ」。現代生活に疲労困憊となった小学生を描く噺だ。

「大丈夫か?」「しっかり頑張れ!」と観客も一体となって応援ムード。多くのファンは孫や娘を見守るように、手に汗握っていた。それでも、本人はマイペースで淡々と口演を続けた。

とにかく初々しい。しかし、最後まで堂々と演じきった。伸びしろをたっぷり感じさせた。

師匠文枝は82歳。師弟には、実に66歳もの年齢差がある。これは伝統芸能における師弟関係でもギネス級ではなかろうか。

後に登場した文枝は「16歳が演じたことで、その後に出た兄弟子、姉弟子も気合が入った」と、一門の桂三若(56)、桂三扇(55)にも好影響が及んだことを語った。

驚くのは、82歳にしてなお、若い弟子を育てようとする、文枝の情熱だ。それは「上方落語をもっと盛り上げたい」という気持ちにほかならない。

以前、文枝は日刊スポーツのインタビューに「落語界に、もっと若いスターが出てきてほしい」と本音を打ち明けたことがある。その言葉の裏には「歯がゆさ」が感じられた。

かつて昭和40年代、笑福亭仁鶴さんと文枝(当時は三枝)が大ブームの中心にいたのを記者ははっきり記憶している。劇場は仁鶴さん、文枝目当てのファンで超満員。テレビ、ラジオにも引っ張りだこだった。「後に続いてほしい」「上方落語から新たなスターを」という思いが常に文枝の中に渦巻いている。

16歳の新弟子を育てようとするパワー、行動力には脱帽するしかない。82歳でなお、貪欲に上方落語の発展を願い、新星の誕生を望む。桂文枝の凄みを改めて知らされた独演会だった。【三宅敏】