世界と戦うには欠かせない侍に、完全復活の見通しが立った。東京五輪の陸上男子短距離代表合宿が9日、山梨・富士吉田市内で公開され、5月下旬に右アキレス腱(けん)を痛めた桐生祥秀(25=日本生命)は、回復に確かな感触をつかんだ。100メートルでは代表落ちしたが、400メートルリレー代表に名を連ね、アンカーの最有力となる。悲願の金メダルへ-。世界の強豪を抑え、先頭でフィニッシュラインを駆け抜ける。

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芝生をかみしめるように桐生は駆け抜けた。5月下旬からずっと悩まされていた右アキレス腱の痛み。「違和感は出なかった」。タータンではなく、衝撃の少ない芝の上での軽いダッシュ。とはいえ、かすんでいた五輪までに完全復活する道筋が見えた。それが大きかった。「アキレス腱が気にならなかったのが一番の収穫。1カ月で仕上げる自信もある。ベストパフォーマンスでいける」。力強い言葉を並べた。

右アキレス腱の痛みが響き、100メートルは日本選手権5位で代表落ち。以降は「ジョギングもほぼしなかった」と回復を最優先にしてきた。精密検査でも、腱に損傷はなかったという。個人での切符は得られず、ずっと掲げていた「100メートル決勝進出」の目標はついえたが、気持ちは切り替えられている。強い覚悟もある。「引きずっていたらチームの雰囲気も悪くなる。リレーはチームの雰囲気がすごく大事。リレーで最高のパフォーマンスを出すために呼ばれている。しっかり集中したい」。応援してくれるファンの声も、絶望から前を向く力となった。

経験に裏打ちされた自信がある。16年リオデジャネイロ五輪銀、17年世界選手権銅、18年アジア大会金、19年世界選手権銅。すべてに貢献した唯一の選手が桐生だ。「経験があり、いろんな対応をできるようになっている。しっかりアピールしていきたい」。東京五輪の走順は、1走から多田、山県、小池の3人は濃厚で、桐生はアンカーをデーデー、サニブラウンらと争う状況。これまで主戦場としてきた第3走者も含め、「どちらも、しっかりできる自信がある。自信満々でいきたい」と語った。

世界を知るからこそ、冷静な目も持つ。金メダルへ向けては、「最高のバトンパスと最高の走りをしないといけない。そのどちらかが崩れると、アメリカには届かない」。残り1カ月。走りもバトンも研ぎ澄まし、世界を制する刃となる。【上田悠太】