18・44メートル先からの証言-。日刊スポーツでは東京オリンピック特別企画として、侍ジャパンのエース格であるオリックス山本由伸投手(22)の投球に迫ります。4日の準決勝で6回途中2失点(自責1)で決勝進出に貢献した若き右腕。同僚でバッテリーを組む伏見寅威捕手(31)に「左手の記憶」を証言してもらいました。【取材・構成=真柴健】

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山本由伸が先発マウンドに立つと、伏見の左手は、パンパンに腫れ上がる。「威力? 痛いよ、手が…。試合の最後まで手がもたない。そんな投手、先発で見たことがない」。最速158キロの直球に150キロ超を計測するカットボールやフォーク…。想像を絶する“破壊力”に、今季から左手人さし指に「痛み止めカバー」を導入。布製で厚さ数ミリの指カバーを装着し、衝撃吸収を図っているほどだ。

イニングを重ねても、球威は変わらない。オリックスの救援陣にはヒギンスやK-鈴木、沢田ら直球を軸とした「パワー自慢」は多い。「リリーフが思い切り投げてくるボールは、捕っても10球、20球。でも由伸は先発だから100球ぐらいは捕る。手が痛いよ。最近、あいつで左手を痛めちゃったぐらいだから…。受けてるとさ、手が破壊されちゃうよ」。そう笑う31歳の兄貴分は9歳下のエースを「由伸さん」と称するほど雰囲気も相性もいい。

取材の途中には「正直、全部すごいぞ…。だから、取材にならないかもしれないけど」と苦笑い。そう話しながらも、丁寧に言葉を選んだ。「剛腕タイプなのに、本当にコントロールが良い。四球で崩れないでしょ? 制球で悩まないからストライク先行でいける」。その言葉通り、山本が連打を浴びたり、連続四球を出せば、スタジアムが騒然としてしまう。

投球術は天性だと言う。投球テンポは「プロに入ってきたときから、投げるタイミングを自分でずらせた。ゆっくり足を上げたり、少しクイック気味にして、バンバンと投げてきたり。自分で投げるタイミングを外している」。打者の呼吸を読み取り、一瞬の隙を狙う。瞬時に投球モーションに入り、剛球をミットに突き刺す。投げる自分を客観視できており「マウンドで笑ったりしてるでしょ? あれが自然体。どうしよう…とは、ならない。周りを見る余裕がある。いつも『対自分』ではなくて『対相手』になれている」。

150キロを超える“消える変化球”には打者も目を大きく見開く。「こっちはサインを出しているから、さすがにわかる。ただ、150キロの変化球だよ? バッターは速度に反応できていない。人間の反応できる速度を超えちゃってると思うんだよね」とマスク越しにも驚きを隠せない。

「もし、コントロールが悪くて150キロのフォークなんてきたら全球捕れないよ…。由伸の場合、ここに来るという信頼があるから、サインも出せる」

東京五輪中断期間、大阪・舞洲での練習の合間。「ごめんね、少ししか時間を取れなくて」と気遣いながらも、山本由伸を語る伏見の言葉は熱を帯びた。