東京五輪で日本人金メダル1号となった男子柔道60キロ級の高藤直寿(28=パーク24)の母校東海大近くにある居酒屋「魚春」(神奈川県秦野市)では24日、喜びと寂しさが入り交じっていた。店主の内藤茂男さん(50)は「本当なら学生たちと一緒にテレビの前で応援して、喜びを分かち合いたかった。リオは銅で悔しい思いをしたぶん、高藤の金はうれしいですが、なんだか消化不良です」。来月22日までは午後8時閉店の営業時間短縮。酒類の提供も全面中止。さらに5月にクラスターが発生した東海大柔道部は活動休止中のため、現役部員とも交流を持てない状況だ。

先代が経営していた鮮魚店時代にはJOC山下泰裕会長が常連。00年に居酒屋開業後も日本代表の井上康生監督ら東海大OB、OGが集う。高藤も学生時代から通う癒やしの場所だ。16年リオ五輪後には100キロ級で同じ銅だった羽賀龍之介や、リオ切符を逃した王子谷剛志と訪れて反省会。好物の明太子チーズオムレツ、自家製なめらか豆腐、牛肉あぶり焼きなどの勝負飯が、東京への活力にもなった。

決勝の開始前、画面に表情が映ると、内藤さんは「勝つよ、落ち着いている。何となく分かります」。小さくうなずいていた。「学生の頃から、あまり多くは話さない男でした。『オリンピックは生きてる心地がしない。世界選手権とは全然違う』って言っていましたね。コロナの状況で金を狙って取れるのはすごい」と拍手を送った。

コロナ収束後、再会を楽しみに待つ。「勝ち方も年相応になってきたのかな。投げて勝つのではなくても、泥臭く。金メダルを首にかけてもらって一緒に写真撮りたいな」。高藤の“心胃体”を支えてきた内藤さんにとっても、コロナを乗り越える活力となった。【鎌田直秀】