言葉の数だけドラマが生まれた。五輪の名場面が流れるたびに、その時の「名言」がよみがえる。「今まで生きてた中で…」「自分をほめたい…」「チョー気持ちいい」…。繰り返しメディアで報道され、流行語になった言葉も多い。五輪で生まれた名言の数々を振り返る。

五輪の名言で多くの人が思い浮かべるのが1992年バルセロナ大会競泳女子200メートル平泳ぎの岩崎恭子だろう。大会前はメダル候補にも挙がらなかったが、一気に自己記録を更新して金メダル。レース後「今まで生きてた中で、一番幸せです」と言った。

素直な言葉だろうが、14歳という年齢から話題になった。同時に言葉が独り歩きして、本人を苦しめることにもなった。ちなみに、これまでメディアでは「生きてきた中で」と報じてきたが、クイズ番組で「違うんです」と出演者の本人が指摘。VTRでも「生きてた中で」と言っていた。

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96年アトランタ大会マラソン女子の有森裕子は銅メダルを手に「自分で自分をほめたい」と言った。前回の銀メダルからは順位を落としたが、そこまで4年間の苦難を振り返ったからこそ、この言葉が出た。

実は、オリジナルは高校時代に聞いた歌手高石ともやの詩。「ここまで頑張った自分をほめてください」のフレーズに感動し「いつか使える時が来たら使いたい」と思って、心の中に置いてあった。それが、あの瞬間に口をついだのだ。

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「チョー気持ちいい」は競泳男子平泳ぎの北島康介の言葉。04年アテネ大会100メートル後の発言で、続く08年北京大会100メートル直後には「何も言えねえ」と再び名言を残している。レースを振り返ったり、周囲に感謝する従来の言葉とは異なる「一発」の勢い。新時代の「名言」だった。

もちろん、用意していた言葉ではない(と本人も否定する)。重圧に打ち勝って、ぎりぎりのレースを制し、今にも涙があふれそうだった。その涙を見せないために声を張って言葉を絞り出した。実際に、その直後には人目もはばからず大泣きする北島がいた。

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実は競技後の「名言」が新聞で紹介されることは少ない。そのほとんどが、競技終了直後に行われるテレビの「フラッシュインタビュー」で飛び出しているからだ。新聞や雑誌などの活字メディアの記者が選手の生声を聞くのは、テレビの後。競技直後の興奮状態が落ち着いてからなのだ。

ただ、テレビで流れた映像と音声はニュース番組だけでなく、ワイドショーやバラエティー番組でも繰り返し流される。岩崎も有森も帰国後に「騒ぎになっていて驚いた」と話した。本人も知らないところで「名言」は誕生する。【荻島弘一】

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