選手にとって競技で使用する道具は欠かせないパートナーであり、ときには体の一部ともなる。新型コロナウイルスの影響で東京オリンピック(五輪)は1年延期となったが、逆風を乗り越え、アスリートを支え続ける国産メーカーの技術力の高さに迫る。

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【創業100周年 卓球老舗メーカー ニッタク】

“みまパンチ”の異名を取る力強いスマッシュは、創業100周年を迎えた老舗メーカーのラケットから放たれる。

卓球女子で東京五輪代表の伊藤美誠(19=スターツ)が、小学1年のころから愛用しているラケットが「アコースティック」や「アコースティックカーボン」と呼ばれるモデル。卓球メーカーのニッタク(本社・東京)が開発した弦楽器シリーズの1つだ。

企画開発部の松井潤一部長(43)は「7歳だった彼女のため、通常より小ぶりの特注モデルを使ってもらった記録が残っている」。小学校に入ったばかりの選手への対応としては極めて異例だが、「当時から彼女の才能を高く評価し、よい商品を提供することで長く活躍をサポートしていきたい。そんな思いが会社としてあったのでは」(松井部長)。

バイオリンなどの弦楽器は、木材同士の接着が強固でなければ、振動が安定せず美しい音色を奏でられない。そのため、水分の通り道である木の道管にまで浸透する特殊な接着剤が使われる。卓球のラケットも複数の木製素材から構成され、弦楽器シリーズと銘打たれたモデルには、まさにそれらの楽器をつくるのと同じ製造技術が取り入れられている。

改良を加え、バリエーションを広げながら、20年近いロングセラーとなっている同シリーズ。強い打球を繰り出せる“スイートスポット”が広いうえ、繊細なボールタッチも可能にしている。

来月21日には伊藤の20歳の誕生日に合わせ、特別デザインの「伊藤美誠モデル」が登場予定。紫を基調に白のラインを組み合わせたグリップ部分のカラーデザインは本人が監修した。コロナ禍で直接顔を合わせられないなかでも、しっかり意見を交換しながら完成に至った。来夏の東京五輪で伊藤が手にするのはきっと、メーカーの技術と愛情が詰まったその1本になるだろう。

 

◆日本卓球(ニッタク) 本社は東京都千代田区。1920年(大9)に「ハーター商会」として創業。47年7月に現在の社名に変更され、総合卓球メーカーとして事業を展開する。03年にラケット弦楽器シリーズの第1弾「バイオリン」、翌04年に第2弾「アコースティック」を販売開始。13年には「アコースティックカーボン」が登場した。