名門の意地を感じた。横浜F・マリノスはジュビロ磐田に競り勝ち、残留争いの中で大きな勝ち点3をつかんだ。全員が最後まで走り、劣勢になっても諦めない。内容が良くても結果が出ず、崩れかけたチームを立て直すきっかけとなったのは、16日の前節浦和戦の敗北後に行った選手のみのミーティングだった。

オフ明けの18日、練習前にクラブスタッフの勧めもあり、選手のみでミーティングを行った。左膝を痛めるなどして戦線離脱中のキャプテンのDF中沢佑二(40)らが中心となり、数人の選手に話を振るなどして、それぞれの意見を語り合った。

今季からポステコグルー監督が就任し、チームの戦術は大きく変わった。GKも積極的に前に出てビルドアップに参加するハイラインサッカーで、4バックの左右のサイドバックは中盤に入ってボールを受ける動きも担う。選手は特殊な戦術への適応に苦労し、シーズン開幕から思うような結果は出なかった。指揮官は「いい方向に向かっていると信じている。どんな布陣でもやりたいサッカーは変わらない」と口癖のように言うが、中盤の構成など試合ごとの細かなシステム変更は多く、夏場には突如としてW杯ロシア大会の中断期間にも試さなかった3バックの布陣を試した。1度勝ってもなかなか連勝にはつながらず、順位は思うように上がらない。開幕当初は「このサッカーを信じてやるだけ」と口にする選手が多かったが、それは次第に困惑へと変化していった。リーグ優勝3度、93年のJリーグ発足時から参戦する10チーム“オリジナル10”の中で鹿島とともに唯一の降格未経験クラブである名門が、気がつくと残留争いに足を踏み入れていた。

ミーティングでは、03、04年のリーグ優勝を経験するキャプテンの中沢が「マリノスは下を向いてやるようなチームじゃない。みんなで声をかけあいながら楽しくやっていくことで結果はついてくる」と語りかけたという。中沢と同じく選手の前で意見を語ったというFW伊藤翔(30)は「バラバラにならないように、ピッチに集中しようと。そこでいかに戦うか、勝つかだけ。同じような意見を持っている選手は多かった」と振り返った。

これまでも選手のみでミーティングを行うことはあったが、今季はその回数が少なくなっていた。MF天野純(27)は「選手のみのミーティングは珍しい。オフになると移籍もあったりして、このメンバーで戦えるのはあと8試合(当時)しかない。出られない選手のためにも出ている選手が戦うということを話した」。ベテランから若手まで、全員で今後の戦い方を再確認した。そうして臨んだのがこの日の磐田戦だった。

前半に幸先よく先制して流れをつかんだが、後半に同点弾を許し、以降は劣勢が続いた。何度もゴール前まで攻められるが、GK飯倉大樹(32)を中心に体を張って守った。そして、歓喜の勝ち越しゴールへとつなげた。磐田戦でキャプテンマークを巻いたMF扇原貴宏(26)は「(ミーティングで)一致団結して戦っていくことを確認した。相手の流れになって追いつかれても逆転したのは今までになかったこと」と手応えを口にした。決勝ゴールを奪ったDF山中亮輔(25)も「今日は(試合中に)選手同士でよく話せていたと思う」と話した。

ミーティングで確認したことを実践し、結果も出した。依然として各チームの勝ち点は詰まっており、まだまだ残留争いを脱したとは言えない。しかし、何かが変わるきっかけとなる試合になったのは間違いない。ポステコグルー監督は磐田戦を終え「攻められた時間もあったが、選手はみんなハードワークして頑張ってくれた。次はホームで2連戦。いい形でシーズンを締めくくりたい」と話した。

当然ながら、横浜が最後にリーグ優勝した04年からメンバーは様変わりしている。それでも選手は“名門”の看板を背負い、大きなプレッシャーと戦う。次戦はホームの三ツ沢球技場でのベガルタ仙台戦。選手も常々、口にしてきたが、大切なのは良い流れを継続すること。ホームのサポーターの目の前で、横浜F・マリノスとしての誇りを示していく。