<世界陸上>◇23日◇女子マラソン◇ベルリン・ブランデンブルク門発着(42・195キロ)

 【ベルリン=佐々木一郎】世界選手権の女子マラソンで日本人初のメダリストになった第一生命の山下佐知子監督(45)が、指導者としてもメダリストを育てた。91年の東京大会で銀メダルを獲得した同監督は、96年に第一生命の監督に就任。00年に入社した尾崎好美(28)をじっくり育てて、世界選手権10人目の日本人メダルリストに導いた。女性監督のパイオニアは、日本で初めて選手と指導者の両方でメダルを経験した。

 山下監督はあわただしく動いた。周回コースの近くにあるホテルのテレビで、レース状況を確認。尾崎が走ってくるたびに、外に飛び出し、指示を送った。日本でテレビ観戦しているコーチからは、状況を逐一、メールで送らせた。残り10キロ。最後に声を掛けると、自転車をこいでゴール地点のブランデンブルク門へ向かった。

 「最後の指示を出した後は、気が抜けて落ち着いてしまっていた。最後の2、3キロはヒヤヒヤしながら見ていました」。選手として91年世界選手権銀、92年バルセロナ五輪4位。指導者で参加した初の世界大会で、愛弟子が結果を出した。「レース前に『1番とか、そこまで狙わなくていいから』と言ってしまった。言わなければよかった」と笑ってみせた。

 指導者の醍醐味(だいごみ)が分かってきた。入社10年目で世界に出た尾崎から感じることがある。「尾崎を見ていると、3、4年目の選手でも、10年待てばいいのかなと思ったりする。これまで、やめていった子も、今だったらもうちょっと育ったかな」。96年4月に監督に就任してから、試行錯誤の末、メダルにたどり着いた。

 尾崎の走りは、入社する前に見ていない。コーチが視察し、相洋高の石塚先生に推薦されて決めた。2年先輩で入社した安藤と、先生への信頼が決め手だった。「無名の選手だと、練習もちょっとずつやらせるから、すごく伸びることがある。覚悟してくるだろうし、吸収してくれる」。この読みはピタリと当たった。

 「これを目標にやっていますから。駅伝は仕事です。マラソンは仕事とは違って、生きがいです」。ベルリンを事前に視察した時は、ホテルやレストランだけでなく、息抜きに使える動物園もチェックした。ビールも大好き。適度なフランクさが、同性選手との信頼関係を生み、ついには世界舞台の表彰台にたどり着いた。