きっと西野監督には神の声が聞こえていたのだ。「セネガルはゴールできない」と。なにしろ皮算用は禁物と言われるサッカーで、他会場の結果を終了10分も前に予測して、同点ゴールを放棄したのだ。裏目に出たら集中砲火必至の大ばくちが、また見事に当たる。「たいしたものだ」。ほかに言いようがない。

 『持ってる男』は、いったい何を持っているのか。この采配で見えてきた。『即決力』である。サッカーには無数の選択肢があり、正解がない。本意でない決断を迫られることもある。だから監督は悩み、ちゅうちょする。しかし、西野監督は頭に浮かんだイメージを、間髪入れずに実行に移せるのだ。その度胸とスピード感がまた半端ない。

 どこで学んだのか。自著『勝利のルーティン』(幻冬舎)にヒントがあった。02年日韓大会で韓国を4強に導いたオランダ人の知将ヒディンク氏の采配が、「指針になっている」と語っている。先手を打って次々と仕掛けるヒディンク氏の攻撃的な采配は、「マジック」と言われ、何度も世界を驚かせてきた。

 おそらく西野監督は02年に就任したG大阪で、ヒディンク氏の采配を意識して、即決力に磨きをかけてきたのだろう。それがチームを超攻撃的サッカーへと進化させ、数多くのタイトルを手にした。今大会の1、2戦の本田の投入も、3戦の先発布陣の大幅入れ替えも、その延長線上にあるのだと思う。

 ゴールを放棄して他力に任せた采配を、西野監督は「戦略」と言った。批判もあるが、サッカーのリーグ方式ではときどきある。68年メキシコ五輪で準々決勝でフランスとの対戦を望んでいた日本は、スペインとの1次リーグ最終戦で、他会場の同組の経過を聞き、途中から「無得点、引き分け」の2位通過に切り替え、その戦略が銅メダルにつながったといわれる。

 終わってみれば、決勝トーナメントを控えて、主力選手はしっかりと休養できたし、2戦目まで出番のなかった選手も実戦を積めた。何よりGK川島が自信を取り戻したのは大収穫。点に見えた西野監督の采配は、実はすべて1本の線でつながっていたのだ。ベルギーという酷なハードルにも、何だか「あわよくば」の期待が膨らんできた。【首藤正徳】