サッカーとは実に難解なスポーツである。いくらいい選手をそろえても、実力ではるかに上回っていても、勝てるとは限らない。逆に「ウソだろ」というゴールが入って、大番狂わせが起きたりもする。22日のW杯1次リーグC組で、サウジアラビアが優勝候補のアルゼンチンに、2-1で逆転勝ちした試合を見て、あらためてそう思った。

国際サッカー連盟(FIFA)ランキング51位のサウジアラビアは、代表メンバー26人全員が自国リーグに所属する国内組。一方、現役最高と呼ばれるFWメッシを擁する同3位のアルゼンチンは、国際Aマッチ36戦不敗のスター軍団。“実力差”は明白だったが、サウジアラビアの選手たちは恐れず、気後れすることもなく、ボールに突進し続けた。

思い出したのが日本がW杯に初出場した98年フランス大会。全員Jリーガーの国内組で臨んだ日本は、初戦でアルゼンチンに0-1で惜敗した。金星を逃した一番の理由は何か。「相手はテレビで見ていたスターばかり。選手も自分も“すげえ”とリスペクトしすぎて、同じスタートラインに立っていなかった。力の差以上にその意識が問題だった」。先日、当時の岡田武史監督から直接聞いた。

一方で番狂わせは、運や偶然だけで起きるものでもない。サウジアラビアは常に守備ラインを高くキープして、DFの裏に飛び出すアルゼンチンの攻撃陣からオフサイドを誘発させた。前半だけで実に7回。相手を徹底的に分析研究し、あらゆる攻撃のシミュレーションを想定して準備したルナール監督の緻密さが、運を引き寄せたのだと思う。

岡田氏にまつわるエピソードをもう1つ。2度目に日本を率いた10年W杯南アフリカ大会を控え、強豪相手に1-0で迎えた終盤、逃げ切るにはどうするかを考えた。DFを投入すると気持ちまで守りに入る。前線でボールを追い回し、ゴール前ではヘディングで競り合える選手がベスト。そのためにFW矢野貴章をメンバーに入れた。すると初戦のカメルーン戦で本当にその場面がきた。矢野は見事にFKを2度クリアして、1次リーグ突破への貴重な1勝を引き寄せた。

それにしても、後半開始早々、サウジアラビアに逆転されたアルゼンチンは明らかにバタつき、メッシの存在感も薄れた。追いかける展開を予想していなかったのか。相手が国内組ばかりで情報収集ができていなかったのか。いずれにしても慢心があったのだろう。何が起きるか分からないからこそ、準備が重要なのだ。そんな教訓を教えてくれた試合だった。それはサッカーに限らず、私たちの日常生活も同じなのだと思った。【首藤正徳】(ニッカンスポーツ・コム/スポーツコラム「スポーツ百景」)

逆転ゴールに喜ぶサウジアラビアの選手たち(ロイター)
逆転ゴールに喜ぶサウジアラビアの選手たち(ロイター)
試合に敗れ、引き揚げるアルゼンチンの選手と、勝利を喜ぶサウジアラビアのサポーター(ロイター)
試合に敗れ、引き揚げるアルゼンチンの選手と、勝利を喜ぶサウジアラビアのサポーター(ロイター)
アルゼンチン対サウジアラビア 両手で顔を覆うアルゼンチンのメッシ(ロイター)
アルゼンチン対サウジアラビア 両手で顔を覆うアルゼンチンのメッシ(ロイター)