皆さんは「ハイダイビング」という競技があることをご存じだろうか。

起源は、ハワイの王たちが戦士たちに勇気を示すため、自ら崖から飛び込んだことだと言われている。


ハイダイビングの試合会場は自然の中
ハイダイビングの試合会場は自然の中

現在では、男子は27メートル、女子は20メートルの高さから宙返りやひねりを加え演技をする採点競技だ。水面までは約3秒。時速85~100キロにも達し、加速度は最大10Gにもなると言われている(ジェットコースターの急降下が最大3~5G)。

試合は2日間に分けて開催される。男女共に1日2本ずつ飛び、2日間の異なる4本の演技の合計点数で順位が競われる。採点方法は通常の飛び込み競技と同様で、FINA(国際水泳連盟)の試合では7人の審判が0~10点で採点する。異なるのは、水に飛び込み、水面に上がってきた選手にはっきりと意識があることを確認して初めて演技が完了したとみなされるところだ。

入水時の角度が大きくずれて失敗してしまった場合は、衝撃のほとんどが上半身にかかり気絶する場合もある。そのため、試合の際は必ずレスキューのダイバーが着水地点付近に待機しているという、一瞬の気のゆるみも許されない命がけの競技だ。

レッドブルが主催する大会が11年ほど前から開催されていたが、初めてFINAの大会として世界選手権が開催されたのは、2013年のバルセロナ大会。私たち日本代表の選手も試合後にハイダイビングの会場を見学し、実際に飛んでいる姿を見たが、その高さは想像を絶するものだった。

飛び込み台と言っても、おもに自然の中が試合会場で、崖や橋の上が飛び込み台となり、そこに人工的な足場をつけて試合会場が完成する。普通であれば危険とされる場所が会場となっているため、観客席は選手が飛ぶ台から遠く離れたところにあり、誰が飛んでいるか肉眼では判断できなかった。一般的に、飛び込み競技と似た競技だと思われているが、私には全く違う競技に思えてならなかった。

ハイダイビングが飛び込み競技と大きく異なる点は、「足から入る」という点である。

衝撃が強すぎて、頭から入った場合に命の危険が生じることは皆さんも想像できるだろう。しかし、足から入る場合でも、体への負担を考えると1日に飛べる回数は多くても5、6本ほど。試合がない限り、最低でも1日は間隔を空けて練習を行うという、心身共にタフさが求められる競技なのだ。


男子は27メートル、女子は20メートルの高さから飛び込む
男子は27メートル、女子は20メートルの高さから飛び込む

ハイダイビングをしている選手は元飛び込み選手が大半だが、この競技に日本人選手はきっと生まれないだろうと思っていた。日本には練習する環境もなければ、教えられる人もいない。

しかしその予想は外れ、現在、日本にただ1人ハイダイバーがいる。

「荒田恭兵」だ。彼も元々は飛び込み選手で、ジュニアの頃からよく知っているが、まさか彼がハイダイバーの道に進むとは思いもしなかった。私もとても興味があり、本人にインタビューさせてもらった。

次回は、日本で彼以外、誰も経験したことのないハイダイビングの世界について、皆さんにお伝えしようと思う。

(中川真依=北京、ロンドン五輪飛び込み代表)