毎週日曜日掲載の「スポーツ×プログラミング教育」。今回は国際数学オリンピック金メダリストでジャズピアニスト・数学者の中島さち子氏の登場です。プログラミング教育の基本的な考え方や海外での教育事情、AI台頭の新しい時代だからこそ必要な状況がありました。【聞き手=豊本亘】

国際数学オリンピック金メダリストでジャズピアニスト・数学者の中島氏(撮影・豊本亘)
国際数学オリンピック金メダリストでジャズピアニスト・数学者の中島氏(撮影・豊本亘)

数十年前に提唱

プログラミングが教育に使えると最初に言い出したのは、マサチューセッツ工科大学名誉教授で数学者、発達心理学者のシーモア・パパート氏(88歳で死去)です。これだけ時代が動いている中、数十年前に提唱されたこの考え方にあらためてスポットがあたるのは、非常におもしろいと思います。同氏は、子どもがものづくりを通して知的な枠組みを構築する「構築主義」を提唱し、子ども対象のプログラミング言語「LOGO(ロゴ)」を初めて開発したことでも知られています。

数学学習でプログラミングしてコンピューターに指示を出す。やり方は無数にあって、うまくいかなくて試行錯誤する。そんな過程を通して、自分でコンピューターへの伝え方(指示)を作り出し、数学の学びを深めていきます。一方的に知識を教えられる側から、教える側になる教育。1つの答えを教わるのではなく、自分で多様なソリューション(解決)を模索します。

プログラミングの良さにティンカリング(いじくりまわす)があります。遊ぶようにいじくりまわすことで、いったりきたりがしやすくなります。そして、ものづくりや何かを動かす、困っている人に使いたいとか、もともと持っている想像力を見える化できる時代。この時代を生きていく中で、プログラムを書けるよりも、プログラミングを通じて学べる考え方とかスキルが非常に大事だと思います。

STEAM教育

日本では4月から小学校で必修化されますが、諸外国ではプログラミング教育とは言われていません。使われているのはSTEM教育やSTEAM教育。Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Mathematics(数学)にArt(芸術)の総称です。メインはSTEMですが、アートデザイン面のArtも大事なので、ニューヨークではSTEAMです。

日本の教育で陥りがちな間違いが、プログラミング教育=プログラミング言語が書ける、となることです。覚えた言語は移り変わりとともに使えなくなりますが、ここで試行錯誤をしておくと、その経験が言語の再活用でもいきます。スポーツも同じで、全部教えてもらうのではなく、その人の体格やチーム状況などに合わせて考えることで、環境が変わっても多角的に見られたり感じられたりします。プログラミング教育も、答えがあってマニュアルがある教育では、パパート氏の考えとは逆行します。自分でプロジェクトを立てていっぱい失敗して試行錯誤する。本当はそっちのほうが楽しいし役に立ちます。

効率よくみんなここまでできるようになる、という大量生産型の教育は20世紀に成功していたモデルです。21世紀は、言われたルールを守ることはAIができるので、より自分の頭で考え、感じ、問いやプロジェクトを自分で立てられることが求められます。過去の統計に基づいて判断するAIにはない、人間だからこその判断基準を持つ必要があります。

国際数学オリンピック金メダリストでジャズピアニスト・数学者の中島氏(撮影・豊本亘)
国際数学オリンピック金メダリストでジャズピアニスト・数学者の中島氏(撮影・豊本亘)

チームで実現へ

プロジェクトを実現する手法も変わりつつあります。ICT(情報通信技術)の活用で、今までは違う世界にいた人たちとつながって何かを行うことで、新しいことが見える場合もあります。自分だけでなくチームで向き合うと実現の可能性が高まります。「プレイフル・ラーニング」(夢中になってワクワクする学び)の提唱者である同志社女大の上田信行教授は、手法の変化について「今まで『Can I』だったが『How can I』、もっといくと『How can we』になる」とおっしゃっています。(つづく)

◆中島さち子(なかじま・さちこ)96年国際数学オリンピックで日本人女性初の金メダルを獲得。東大理学部数学科卒。ジャズピアニスト、数学者、STEAM教育者。現在は音楽・数学・教育の3軸で活動。株式会社STEAM Sports Laboratory取締役。

(2020年1月26日本紙掲載)