左から野球アナリスト山田氏、バスケットボールアナリスト柳鳥氏、糸満プロデューサー
左から野球アナリスト山田氏、バスケットボールアナリスト柳鳥氏、糸満プロデューサー

毎週日曜日掲載の「スポーツ×プログラミング教育」。今回は、プロスポーツのデータ分析などを手がけるデータスタジアムです。糸満盛晃プロデューサーと野球アナリスト山田隼哉氏、バスケットボールアナリスト柳鳥亮氏は、データ分析で部活動の戦略を考えるワークショップの講師を務めました。3人に仕事内容や、データ分析で部活動がどう変わるかを聞きました。【聞き手=豊本亘】

コンテンツを提供」

-データスタジアムの事業について

糸満プロデューサー(以下、敬称略) スポーツのデータ分析、提供などが主な業務です。野球、サッカー、ラグビー、バスケットボール、卓球などの試合におけるプレーデータを取得、蓄積、分析して、リーグやチームに対して強化や戦術向上のためのサポートをしています。また、スポーツファンに対してはメディアを通して、競技をさらに楽しむためのデータコンテンツを提供しています。

糸満盛晃氏
糸満盛晃氏

-アナリストの仕事内容は

柳鳥バスケットボールアナリスト(以下、敬称略) バスケットボール担当歴は2年弱です。Bリーグの場合は、クラブとの仕事が多く、大きく分けると強化と会場演出の2通り。強化では要望をヒアリングしながら、必要なデータを抽出・集計して提供しています。他にはリーグ・メディアからのデータに関する各種問い合わせの対応や、試合中継で使うスタッツを現地で集計したりする仕事もあります。

山田野球アナリスト(以下、敬称略) 野球担当歴は8年弱で、プロチームの担当は14年からです。プロ野球の場合は、チームが持つトラッキングデータと、当社が持つプレーデータを組み合わせてチーム強化に関する提案、助言を行っています。選手の長所や課題からパフォーマンス向上を考えたり、戦術の有効性の検証、編成面では獲得すべき選手をアドバイスすることもあります。外国人選手は海外のデータを組み合わせながら評価します。

ニーズの把握整理」

-やりがいや苦労は

柳鳥 話し合いながらニーズにあったデータを見つけられるとうれしいですね。相手のニーズが明確でない場合は、話し合いを通じてニーズの把握・整理が必要になるので大変ですが、その分やりがいがあります。会場演出は、試合の見どころを紹介する際にデータを活用します。チームの特徴を表すようなデータや、試合の勝敗を分けるポイントとなりそうなデータを取り上げることが多いです。盛り上がるデータに仕立て上げられるかが腕の見せどころです。SNS上で反響があると次へのモチベーションになりますね。

山田隼哉氏
山田隼哉氏

山田 提案、助言した内容が戦術や選手の獲得に反映されたり、チームの意思決定に関われるのはやりがいを感じます。自分が提供したデータや情報、知見で人が動くというのが醍醐味(だいごみ)ですね。ただ、どんどんデータが複雑になっているので、いかに分かりやすく正しく説明するかは毎回難しさを感じます。正しく伝えようと思うと難しくなるし、簡単に伝えようとすると正しく伝わらない。相手とは何でも話せる間柄じゃないと、こちらの提案を受け入れてもらえないので、信頼関係を築くことも意識しています。

-NBAや大リーグに関して

柳鳥 データ分析に関しては、NBAのほうが進んでいます。過去数十年分の蓄積があり、トラッキングデータと呼ばれる、選手やボールの位置・軌跡情報もあるので、データの量と質が違います。その手法をBリーグに持ち込むこともあります。

山田 日本におけるデータ分析はここ数年で、トラッキングデータが入ったことで分かることが増え、分析の手法もかなり増えました。米国では何年も前から進んでいるので、お手本にして日本用にアレンジしています。日本はバントが多いとか、得点の入りやすさなどが違うためです。

-今後のデータ分析や大切なこと

山田 分かっていないことがいっぱいあるはずなので、決めつけず常識を疑う視点を大事にしたい。一方で、データだけを見ていればいいのかというのも違っていて、自分の経験した中での感覚や予想、仮説を立てる部分も大事にしたいと思っています。

柳鳥亮氏
柳鳥亮氏

一方通行になりがち

-講師を務めたワークショップの感想とデータ分析で教育がどう変わるか

柳鳥 東京・高松中や市長野高でのワークショップ「STEAM バスケットボール」では、想定より生徒たちが熱心にやってくれた。自分が学生の頃は、数字を扱うのは数学の授業だけだった。切り口を生徒たちがやっている競技にしたことで、数学をより深く理解してくれたのではと思う。

山田 茨城・東洋大牛久高の「STEAM 野球」も、チームの試合データを使うことで“自分ごと化”され、生徒は積極的に意見を出してくれた。普段はアウトプットする機会がないだけで「こんな戦術が考えられる」「こういう傾向がある」などを引き出せたのは良かった。

糸満 今までは先生や監督に与えられたことを消化するなど一方通行になりがちでした。これからは、選手自らが考えてトライ&エラーしていく。スポーツをやらされるのではなく“やる”。それが“楽しい”につながると思います。勝敗に直結するかどうかはスポーツの難しさがありますが、こういったプロセスを経ることが必ず将来につながっていくと思いました。

◆データスタジアム株式会社 2001年に設立。プロ野球、サッカーJリーグ、ラグビートップリーグ、バスケットボールBリーグ、卓球Tリーグなどの試合内容をデータ化、分析し、チームやメディア、ファンに提供している。本社は東京・赤坂。加藤善彦社長。