鳴尾浜球場は、5月だというのに暑い。阪神-ソフトバンク戦。取材対象選手をチェックするため、今年の選手名鑑とにらめっこしていると、ふと目に止まった選手がいた。
高校時代、甲子園球場での全国大会で、ピッチャーが投球したワンバウンドの球を見事にヒット、一躍話題の人となった選手。ソフトバンク上林誠知外野手(19)である。早速試合前のバッティング練習に注目した。身長185センチ、体重78キロ。恵まれた体の持ち主だ。バットの振りはシャープだ。パワーもありそうだ。塁間での走塁の練習を見ていると足の運びはいい。あの話題にとらわれがちだが、どうして、どうして。攻、守、走の三拍子がそろっている。大きく伸びる可能性を持った若手である。
じっくり見たことがない。そういう意味ではいい機会だが、これだけのセンスを持った選手でありながら、昨年はあまりお目にかかっていないのが不思議でならない。こういう場合は首脳陣に聞くに限る。今シーズンから就任した水上2軍監督の話しを聞きに走った。
「昨年はほとんど3軍でプレーしていましたが、今年はウエスタンでも結果を残せる力をつけてきました。バッティング、走塁など素晴らしいセンスを持っています。この前、ちょっと上にあがりましたが、1軍と2軍では景色が違うといいますか、まだ気持ちの上で1軍の選手になれていないようで、思うようなプレーができず、すぐファームにおりてきましたが、2軍でなら気持ちの上で多少の余裕があるのでしょう。結果を残しています。やはり今後の課題は状況判断ですかねえ。仮に一塁にランナーがいてライトを守っている場合、その走者が積極的な走塁をする選手なのかどうか。とか、時間にして何秒ぐらいで三塁まで到達するか。などの判断ですかね。まあこれからです。楽しみな選手であるのは間違いありません」
3軍にいたという。疑問は解けたがこのチーム、若手がよく育つ。柳田はいまやパ・リーグの首位打者争いをしている。中村晃は常に3割をキープして安定感がある。松田は完全に一本立ちした。なかなか競争は激しいがすでに6盗塁を決めている。足があって身体能力は高い。私の見たところ、近い将来外野の一角を担っているような気がする。今回の鳴尾浜では1、3戦にスタメン出場。はじめのゲームは4打席目に右翼線へタイムリー二塁打を放ち、次打者の左前打で同点のホームを踏んでいる。3戦目は第1打席が中犠飛。次の打席では右翼席へ文句なしのホームランを放ち、最終打席は左前へ。マルチ安打だ。 現在の調子はいいようだが、冒頭の話題がどこかへ行ってしまいそうだ。テープを巻き戻してみる。「もう、あのワンバウンド球のヒットについては、嫌になるほどいろいろ聞かれたやろな」の質問をしてみると「ハイッ」と正直に答えながやも、笑顔でこんな話しをしてくれた。「あの時はめちゃくちゃ調子が悪かったんですよ。バットの振りは最悪でした。悩んでいた時ですし、球が見えないまま打ちにいったら、なぜかヒットになっていました。調子が良かったらあんな球打ちにいきませんよ。本当にわけのわからないヒットでした」いま、冷静になって考えてみると、不調だったがゆえのヒットだったのだ。プロではそんな悠長なことをいってはおられないが、1軍から声がかかるだけの力がつきつつある。わずかながらでもこの1軍昇格は“調子がいい”だけではなく成長が認められ、可能性を買われてのベンチ入りだったに違いない。
「昨年の3軍はいい経験になりました。いまのテーマはバッティングです。これからアピールしていきたいのはバッティングと足ですね。走れる選手も目標です。この世界ではしっかりボールを見極めて打たないことにはヒットは打てません。まだまだ状況判断などきっちりできるようにしないといけませんし、体力を含め攻、守、走いずれもやることはいっぱいありますから。でも、これからも打率の3割はキープしていきたいです」(上林)。
なかなかのしっかり者だ。有言実行派か。自分自身にプレッシャーをかけて挑む心意気に期待したい。1軍の結果は2打席のみで終わったが、6月1日現在ウエスタン・リーグの成績は、102打数36安打。打率3割5分3厘だ。3割キープに期待したい。



