あら来たよ、3・5ゲーム差! 神宮でヤクルトを撃破し、史上初の長期ロード4カード連続勝ち越し発進や。右手中指痛などもあり当たりの止まっていた福留孝介外野手(38)が6回に決勝の17号3ラン。8回には通算300二塁打で6点目を追加した。後輩荒木郁也内野手(27)に借りたバットで快音。あっ、ラッキーアイテムってか。

 大混戦から虎が抜け出した。1-1同点の6回、福留が号砲を鳴らした。走者を2人置き、石山の変化球を振り抜いた。勝負を決める3ラン。神宮を黄色に染めた虎党が狂喜乱舞した。

 「トリが粘って、大和が広げてくれて。そこまで仕事ができていなかったから、何とかしたかった」

 まず、仲間への感謝を口にした福留がベンチ前でのハイタッチで、特別に抱擁した男がいた。5年目内野手の荒木だった。試合直前、福留が言った。「バット貸してくれないか?」。11日の中日戦で右手中指の第2関節付近を痛めた。以降、当たりが止まった。指を浮かせてバットを握らなければいけない状態。手傷を負う中でベストスイングをするにはどうするか。答えは仲間の力を借りることだった。

 「状態とか、体調の面もあるんで…。どれが一番いいかを考えた」

 素振りもなし。いつもの白木とは違う「黒バット」は福留の直感通り、ぶっつけ本番でも最高の結果をもたらしてくれた。8回には通算300二塁打となるタイムリーでダメ押しの6点目をたたき出した。

 最近、福留が指摘されることがある。お立ち台のコメントが素っ気ないのでは? もともと、愛想のいい方ではないが、その裏には経験を重ねてきた男だけの理由がある。

 「他のやつにいってほしいんだよ。サヨナラとか、だれが見ても俺だけというのなら行くけど、他にいく人がいるなら、普段はスポットライトの当たらない選手にいってもらいたい」

 子供の頃から常に舞台の中央にいた男は今、他人に舞台を譲ろうとする。勝利と敗北。絶頂とどん底。2つを経験した男にしかわからない機微がにじむ。

 ただ1つ、広報担当者に背中を押され、渋々ながらお立ち台へ向かう理由は自宅で待っているお姫様だ。ナイター後、トラッキーのぬいぐるみを抱えて玄関を開けると、愛娘・桜楓ちゃんの寝顔がある。その枕元にそっと人形を置いておく。すると翌朝には1つ増えたコレクションの前でプリンセスが笑っている。

 この夜、ぬいぐるみはなかったが、だれも文句のつけようのない主役っぷりがプレゼントだった。

 「まだ直接対決もあるしどうなるかわからない。ゲーム差ではなく、自分たちのやれることをやって、1つ1ついけばいい」

 セ・リーグで今季初めて首位が2位に3・5ゲーム差をつけた夜でも、百戦錬磨の男は冷静だった。その姿が優勝へ向かう虎にとって頼もしい。【鈴木忠平】

 ▼首位阪神と2位ヤクルトの3.5ゲーム差は、今季セ・リーグの1位と2位との最大ゲーム差。DeNAが巨人につけていた3ゲーム差(5月14~18日、同20~22日)を上回った。

 ▼阪神は今季の長期ロード開始から4カード連続勝ち越し。52年にフランチャイズ制が確立して以降、初となった。ロード途中からを含めると、09年8月14日巨人戦~27日横浜戦の4カード連続以来。今回のロード期間中、走者を置いた場面でのチーム打率は3割3分5厘(194打数65安打)で、ロード前の2割3分5厘から大幅に上昇。好機を生かし、勝利を重ねている。