<日本ハム2-3西武>◇15日◇旭川

 敗れはしたが、球宴後を見据えた起用で収穫も得た。今季初登板初先発の日本ハム木佐貫洋投手(34)は、3回に先頭打者からの連打から2失点、4回も暴投で追加点を許し、5回途中3失点で降板した。その後は必死の継投策で接戦に持ち込みながら西武に逃げ切られたが、2番手河野、3番手矢貫らが好投し、後半戦に光明を見いだした。

 棒立ちした。交代のコールを受け入れた。木佐貫が憤りを鎮め、淡々とベンチに下がった。やっと到来したマウンドに、しがみついた。2失策にリズムを乱されながらも4回2/3を3失点、自責点2。今季初の1軍登板を、戒め続けた。「いろいろな思いはありますけれど、試合になったら結果が大事」。低めに集め続けた執念は報われなかったが、1度は消えかけた存在の痕跡を残した。

 不屈の思いは引き継がれていった。2番手河野、3番手矢貫へ。9回は守護神から一時、配置転換された増井が締めた。5回以降は無失点リレー。栗山英樹監督(53)は、前半戦残り2試合のこの日、あえて賭けに出た。「どんな時も勝ちパターン。そういうモノを作らないといけない」。2番手以降に谷元らを投入する、今季の開幕からの白星を狙う継投策を打つ手もあった。避けて、先を見据えた。

 反攻への青写真を描きにいった。木佐貫は先発、矢貫と増井は中継ぎで昨季の投手陣の主力格だった。河野は台頭を期待される2年目。戦力として再生するための手段だった。大勝負が始まる球宴明けを見据え、層を厚く固めにいった。栗山監督は「いけると思った」と逆転勝利を確信するほど、全員が思惑の狙い通りに躍った。痛恨の黒星ではあるが“先行投資”で有意義、価値はあった。

 先陣を切った木佐貫は我慢の2軍調整中、ファンからプレゼントされた本に見入った。宮部みゆき著の「小暮写眞館」。同じ鉄道好きで、同名のヒロシという人物が登場する。その作中の1つのフレーズを自らに投影しながら、この日が訪れることを待ったという。

 「人生でもっとも大切で、もっとも難しいのは、“待つ”ということだ」。

 木佐貫を筆頭に接戦へと導いていった中継ぎ陣も、日の当たる出番を待ちこの日、反骨心をはじけさせた。試合前に球場前のスタルヒン像に祈りをささげた栗山監督も、機を待った。重要な一戦に起用して力水を与えた。残すは前半戦1試合、今季62試合。希望の光は、静かにともったと信じたい。【高山通史】