それぞれの思いを胸に、九重部屋が新たな船出を迎えた。前九重親方(元横綱千代の富士)の死去後、初めて迎える本場所。三役格呼び出し重夫(50)は、前日の触れ太鼓で25年ぶりに「千代の富士」の羽織を1日限定で解禁した。引退した力士の羽織は着ないのが慣例だが「師匠への弔いの気持ちで、衣装ケースの底から引っ張り出しました」。81年夏場所の入門後、初めてもらった羽織だけに思いの丈もひとしお。道行く人の歓声に、小さな大横綱の偉大さをかみしめた。

 思いは、力士も同じだ。初日は6人の関取衆だけに取組があり、千代翔馬は「亡くなって弱くなったと思われたくない。(体重が)軽くても相撲が取れるというのを見せたい」と、新入幕対決で巨漢の天風を退けた。最後2人が敗れたものの、全員が奮闘。左目を負傷しながら粘った千代鳳は「みんな、覚悟がありますから」と決意を示した。

 関取衆の思いを感じ取った新師匠(元大関千代大海)は「気持ちだけ。俺のほうがヒヤヒヤしたよ」とねぎらい、安堵(あんど)した。前師匠が生前、関取衆が全員勝った日に食事をごちそうする約束をしていたことも知っている。「勝ったら、自分がやってあげたい」。遺志は、受け継がれている。【桑原亮】