「東の羽生善治、西の村山聖」とまで称された天才棋士の村山聖が、29年の短い生涯を閉じるまでを描いた、大崎善生氏の同名ノンフィクション小説を映画化した。

 幼いころからネフローゼ症候群に侵されていた聖は、入院中に父から教わった将棋の魅力に取りつかれ、棋士を目指すことに。寿命を悟っているかのように、生き急ぐ。将棋に全てを注ぐがゆえ、仲間に八つ当たりしたり…。心が子供のまま大人になっていく。そんな村山が、おそらくかなわない「人並みの幸せ」を語る一幕には、ホロリとさせられる。

 松山ケンイチは見事な役作りだ。20キロ増量した姿が公開前から話題になっている。膨れた頬、ボサボサの髪、重そうな体を引きずるような歩き方は、村山をよく研究しているし、再現している。

 肝心の羽生(東出昌大)との対局は、大一番と分かっていても、村山の人生においてどんな意味があるのか説明が欲しかった。将棋の知識、村山の人となりを予習していくことは必須。薄幸の天才の感動物語として見るか、ドキュメンタリーとして見るかでも、好き嫌いは分かれるだろう。【森本隆】

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