<フィギュアスケート:欧州選手権>◇第3日◇17日◇ブダペスト

 「ロシアの秘密兵器」が母国での金メダル争いに名乗りを上げた。女子ショートプログラム(SP)2位のユリア・リプニツカヤ(15=ロシア)がフリーでトップの139・75点とし、逆転で大会最年少優勝を果たした。合計209・72点は国際スケート連盟(ISU)公認大会の今季最高で、ソチ五輪代表を確実にした。金メダルを狙う浅田真央(23)らに強敵出現となった。

 愁いを帯びた大人っぽい表情で遠くを見つめて演技を終えたリプニツカヤが、一気に少女に戻った。会心の演技に感情を隠せずに、思わず両手で顔を覆って喜びを爆発させる。「200%の滑りができた。まさか自分が勝てるとは思わなかった」。得点が表示され逆転優勝を知ると、再び端正な顔は小さな手で覆われた。母国での五輪へ、年齢制限より1カ月早く生まれ、ギリギリで出場資格を得た15歳が希望の星となった。

 確かな武器がある。柔軟な身のこなしを生かした自分だけのスピン。特に背中ごしに上げた右脚を体にぴったりくっつけるビールマンスピンだ。本来は靴のブレード(刃)を持つ両手は、足首をつかむ。1本のろうそくのように見えるため、自ら「キャンドルスピン」と名付けた。

 演技最後のスピンも、前方から上げた左足を体に沿わせるようにして、体全体を1本の線にしての高速回転を披露。「キャンドルスピン」も含めた全3つのスピンで最高難度レベル4を獲得し、観客を魅了した。その柔軟性には11年のロシア杯のエキシビションで一緒だった浅田真央も「ビックリしました!

 足があそこまで上がるのはすごい」と認める逸材だ。

 金メダル争いに食い込む実力を支えるのは、表現力もある。第2次世界大戦の強制収容所を扱った映画「シンドラーのリスト」の曲で滑るフリー。年齢的にも難しいテーマだが、フィギュアの女子では珍しい襟付きの赤いジャケット風の衣装をまとい、訴えかけるような滑りをみせる。「最後まで集中できた」と芸術的要素を評価する演技構成点でも68・00点と高得点をたたき出した。

 ロシアの女子シングル出場枠は2つ。今大会の優勝で、同2位のソトニコワとともに代表選出は確実だ。昨年12月のロシア選手権ではソチ五輪本番会場での演技を経験し、「地の利」も持つ。得点には「ちょっと信じられない」とあどけない顔で目を丸くした15歳。「夢に1歩近づいた感じ。もし本当に出られたら美しい滑りがしたい」と照れくさそうにほほ笑んだ少女が、フィギュア大国復活へと導く。

 ◆ユリア・リプニツカヤ

 1998年6月5日、ロシア・エカテリンブルク生まれ。4歳で競技を始め、現在はトゥトベリゼ・コーチの下、モスクワで練習に励む。12年3月の世界ジュニア選手権では総合187・05点の高得点で優勝。10月にはシニアデビュー戦のフィンランディア杯を制覇し、GPシリーズ初陣の中国杯では浅田真央に続く2位。シニア本格参戦の今季はGPシリーズ2連勝し、GPファイナルは2位と躍進した。趣味は乗馬と絵画。158センチ。