<大相撲名古屋場所>◇初日◇11日◇愛知県体育館

 大相撲名古屋場所が、逆風の中でスタートを切った。日本相撲協会広報部に記録が残る1985年(昭60)以降、名古屋場所初日で初めて「満員御礼」の垂れ幕が下がる大入りにならなかった。野球賭博騒動で開催決定が遅れ、解雇者や謹慎者を出した影響が観客数に現れた。村山弘義理事長代行(73)は、「改革の場所」とあいさつ。千秋楽での満員御礼へ挽回(ばんかい)を誓った。

 身内に甘いと言われる相撲協会が、心を鬼にした。大入り発表は、なし。会場の定員8100人の約89%にあたる7200人が来場した。90%以上とする満員御礼の基準まで、80人程度足りなかった。四半世紀前からデータを残して以来、名古屋場所の初日としては初めてのことだった。

 名古屋場所担当の二所ノ関部長(元関脇金剛)は「(大入りを)出せば水増しと言われるし…。3回、場内を見回って、ずっと考えた。理事長代行と話して決めました」と明かした。早朝から当日券を求める200人以上の行列ができたが、7日から受け付けたチケット払い戻しの影響もあった。

 野球賭博に関与した力士のうち、幕内6人、十両4人が謹慎処分を受けて休場。取組数は幕内18番、十両11番となり、それぞれ先場所初日より3番ずつ減った。ご当地力士の大関琴光喜関が解雇されたことも、客足を鈍らせた。謹慎中の武蔵川理事長(元横綱三重ノ海)に代わり、村山理事長代行が土俵に上がると「帰れ~」とのやじまで飛んだ。

 しかし、初日恒例の「協会ごあいさつ」が進むにつれ、やじは消えた。危機的状況を説明し「力士を始め、協会員が一丸となって、再生に向けての改革の本場所とすべく、確固たる決意をもって取り組む所存であります」などと自作の文章を読み上げた。2分49秒のあいさつが終わらないうちに大拍手が起き、声がかき消された。

 賭博に関係なかったり、謹慎に値しない力士は、土俵で好取組を見せるしかない。大関日馬富士は「いつもより、拍手が多かったし、良かった。変な感じはなかった。温かい目で見てくれていると感じました」と、勝負に敗れながらも、悪びれずに言った。

 村山理事長代行は、大入りが出なかったことについて「いろいろなご意見があったことのあらわれなのかなと思います。でも、今日は素晴らしい相撲だった。私は、千秋楽には、満員御礼を出せるようになっていくだろうと、期待しています」と言った。NHKの生中継もなく、懸賞も減った逆風の中での、名古屋場所。背を向けたファンが振り返るかどうかは、今後の土俵にもかかっている。【佐々木一郎】