メジャーで「サイン盗み」「スパイ行為」の歴史は古く、いまだに語り継がれている有名な騒動も多い。

米国野球学会が発行する「ベースボールリサーチ・ジャーナル」によると、古くは1900年、フィリーズとレッズの試合でサインを盗み、電子パルス(一瞬だけ流れる電流)で打者に伝達するということが行われた。1909年にはヤンキースが、球場内の帽子の広告を動かすことによって打者に球種を伝えているという疑惑が浮上。1951年には、ジャイアンツが高性能双眼鏡を使って捕手のサインを盗んだおかげで地区優勝を達成したことが後に話題となった。

近年は最新デジタル端末などが利用されている。17年8月、レッドソックスがヤンキース戦中に「アップルウォッチ」を利用してサインを伝達した疑惑が浮上し、同地区ライバルのヤンキースが大リーグ機構に正式抗議する騒動が起きている。

翌月にニューヨーク・タイムズ紙がスクープしたところによると、レッドソックスは球場内のカメラで捕手からサインを盗み、アップルウォッチでベンチに情報を伝達し、そこから打者に伝えていたことが判明した。

昨年10月のポストシーズン中には、アストロズが球団職員を使い、レッドソックス戦中に敵のベンチ内の様子をビデオで撮っていたことが騒動となった。今年2月のスポーツイラストレイテッド誌が特集しているが、それによると少なくとも6球団が捕手のサインを盗むため外野のセンター位置にテレビカメラを設置しているそうだ。そのため他球団のほとんどは数種類のサインの組み合わせを用意し、走者がいなくても頻繁にサインを変えている。

18年4月、捕手サンチェス(右)と話す田中将大
18年4月、捕手サンチェス(右)と話す田中将大

昨季にマウンド訪問回数制限ルールが導入されるまで、ヤンキース田中将大投手(30)が登板中によくサンチェス捕手を呼ぶ場面があったが、なぜかと聞くといつも答えは「サインを変えるため」。二塁に走者がいると必ず変えていたという印象だった。

メジャーでは「二塁走者にはサインを盗まれるもの」という暗黙の了解がある。だがそれを打者に伝えているところを見つかると非難される。特にハイテク機器を使ったスパイ行為は問題視され、今季から外野のカメラ設置禁止、クラブハウスやブルペンに設置したテレビモニターの映像は8秒遅れにすること、などのルールが作られている。【水次祥子】