「佐井 in USA」と題し、メジャー取材から帰国した佐井陽介記者(35)がベースボールの潮流をルポする。

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投球やスイングが細部まで解析され、膨大なデータに左右されがちな近代米国野球。ハイテク化が進んでいるはずなのに、いざゲームに入れば大味な力勝負の印象が強まっていた。100マイル(約160・9キロ)の高め直球が豪快なフルスイングを空振りさせる。最近よく見られる光景も「フライボール革命」がもたらした副産物のようだ。

メジャー4年目のドジャース前田はここ数年の配球の変化を教えてくれた。

前田 下から振る打者が多くなったことで、高めのフォーシームがすごく有効になってきました。もちろん1年目(16年)も有効ではあったんですけど(配球の)頻度は年々増えている。以前より今の方が、高めのフォーシームを投げる割合は多くなったと思います。

「バレルゾーン」を意識して、打球角度を上げにかかる打者が増加。投手はこの流れを逆手に取り、アッパー気味のスイングでミートしやすい低めよりも高めを重視し始めた。

とはいえ、高めは1歩間違えればベルト付近への失投につながる。投手は危険と隣り合わせで弱点を突きにかからざるを得ない。

前田 僕の場合、球数を減らすことも考えて、パワーのない打者には真ん中高めを打ってもらって外野フライ、というイメージがあります。ただ、メジャーでは7、8番でも20、30発打つ打者がいるので怖さもある。もちろん打たれたくないけど、ソロだったら切り替えるしかない。走者を出しての1発だけは防がないと、という感覚ですかね。

メジャーの打者は心底油断ならない。前田は今季初登板となった3月30日ダイヤモンドバックス戦の1回、外角直球を豪快に引っ張られて先頭打者弾を許している。昨季までメジャー9年間で通算14本塁打、昨季はわずか2本塁打の34歳ダイソンに、だ。

もちろん、今も的を絞らせずコーナーいっぱいに制球できれば、低めの出し入れは変わらず有効。ヤンキース田中の好調時は低め中心の配球でも痛打される回数は少ない。前田も「ちゃんと投げれば大丈夫」と語る。ただ、少しでも制球にズレが生じると、振り上げるスイングの餌食になる危険性をはらむから難しい。

10年前の大リーグは1試合平均1・04本塁打。それが5月25日時点で今季は1試合平均1・35本塁打。高低どちらにも失投を許されない時代。今、「フライボール革命」が米国で打者有利の状況を作り出している事実は間違いなさそうだ。

では、日本の打者も米国発の「革命」に乗っかるべきなのだろうか? 有識者に話を聞くと、ついつい見過ごされがちな、ある条件に気付かされた。(つづく)【佐井陽介】

◆フライボールレボリューション(革命) メジャーでは16年ごろから打球角度を上げる打法が注目され、17年にはこの言葉が出始めた。打球の角度と強さが重視され、その両方を最適化した「バレル(芯でとらえた確率)ゾーン」の打球が最も長打になりやすいとのデータ分析も浸透した。例えば角度26~30度なら速度98マイル(約157・7キロ)以上というデータは、今では誰もが把握する。

◆佐井陽介(さい・ようすけ)兵庫県生まれ。06年入社。07年から計11年間阪神担当。13年3月はWBC担当、14年は広島担当。メジャー取材は、08年春のドジャース黒田以来11年ぶり。