「麺工房 東海」の店主・王明春さん(撮影・小早川宗一郎)
「麺工房 東海」の店主・王明春さん(撮影・小早川宗一郎)

かつて広島には「昭和の野球人」を支えた中華料理店があった。金田正一、長嶋茂雄、王貞治ら巨人のV9戦士を中心に、名だたるレジェンドがこぞって通い詰めた「東海飯店」。当時は子どもだった王明春さん(66)は現在、「麺工房 東海」としてその味を受け継いでいる。6月に亡くなったミスターら過去のレジェンドたちの思い出を回想してもらった。

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「東海飯店」には、巨人V9戦士の胃袋を満たした定番メニューがある。まずは「豚足サラダ」から始まる。豚足をよく炊き込んでボイルして油を抜いてタンパク質とゼラチンを最大限に。キャベツももみ込んでかさを減らして食べやすくする。シメには牛テールのスープ、もしくはラーメン。一晩中、煮込んで軟らかくとろとろになったものを提供した。メインも伊勢エビやらフカヒレやらという高級料理ではなく、家庭料理だった。そのわけを、王明春さんはこう説明する。

「たぶん高級なものは食べ飽きてるだろうしね。ふらっときて家庭料理を食べたくなるんじゃないですかね」

「東海飯店」で豚足サラダをほおばる王貞治氏
「東海飯店」で豚足サラダをほおばる王貞治氏

逸話も盛りだくさんだ。金田さんが来店したら、どんなに暑くてもエアコンを止められたという。

「肩を冷やしちゃいかんという考えで、来たら『全部エアコン止めろ』って。肩にバスタオルかけて冷やさないようにして。みんな汗だくでご飯食べてましたね」

金田さんにはひときわかわいがってもらった王明春さん。一時は金田さんの養子になる話まであったという。

「子どもが好きでかわいがってもらってて。養子にこんか? って言われてたんですけど、うちの母親が『末っ子じゃけ絶対手放せん』って断ってました」

王明春さんの幼少期、写真に収まる金田正一さん(右と左下)、野村克也さん
王明春さんの幼少期、写真に収まる金田正一さん(右と左下)、野村克也さん

長嶋さんはお酒は飲まず、飲み物は決まって三ツ矢サイダーだった。子どもながらに、テーブルに渡しに行く。

「お酒は飲まないけど炭酸は欲しかったんじゃないですかね」

ついこの間のように、色濃く記憶に残る。だからこそ、突然の訃報は悲しかった。

「いつかあることと思いつつもね…。僕らはずっぽり昭和の野球を肌で感じて、身近にも感じていたので寂しいですよね。金田さんが亡くなり、長嶋さんが亡くなり…。一時代が終わったなという現実を突きつけられるような感じですかね」

今はかつてのような大型店舗を閉めて、広島駅から北へ約10キロ、安芸矢口駅近くで麺中心のお店のみ営業している。かつての豚足サラダなどのメニューは週末の夜営業で常連さんに提供する。

「昔ながらのファンの方が王さんが食べた、長嶋さんが食べた料理を味わってもらえればなと思います」

「麺工房 東海」の名物の1つ「牛テールラーメン」(撮影・小早川宗一郎)
「麺工房 東海」の名物の1つ「牛テールラーメン」(撮影・小早川宗一郎)

記者もせっかくなので名物メニューの1つ「牛テールラーメン」をいただいた。牛のうま味がたっぷりで、上に乗ったレモンの爽やかさも絶妙。味変用のキムチを投入すると、韓国風でこれもまたおいしい。

レジェンドたちが愛した味は、今も広島で生き続けている。【小早川宗一郎】(この項おわり)