キャンプイン-。プロ野球界も新しい年のスタートを切った。各選手が技術の向上はもちろんのこと、大事な1シーズンを乗り越えるための精神力、体力を築く場所。私も体験したが中途半端な練習ではない。たっぷりと時間をかけての自分との闘い。ある意味、1年で一番厳しい期間。覚悟をして挑戦。各チームの成果に注目したいが、阪神のキャンプがどうも気になる。1軍の沖縄は期待の若手も参加。例年通りの流れで練習を進めていけるが、問題は高知・安芸市での2軍キャンプである。1月の合同スタッフ会議で振り分けたメンバー。若いピチピチした野手はいない。この1軍半的な選手をどう扱うか。人数も13人。少々不安を感じるのだが……。

 そこで、今シーズンから初のポストに任命された矢野燿大2軍監督にスポットを当ててみた。

 そして、昨年痛めた右足を手術。故障あがりで大事をとって2軍スタートを余儀無くされたレギュラー候補の上本が気になる。

 ピッチャーには若手がいる。何の問題はないが、首をかしげざるを得ないのは野手である。人数は13名しかいない。これではファームに必要不可欠な実戦練習ができない。要するに選手が少なくて紅白戦ができない。果たしてこのメンバーで充実したキャンプが張れるだろうか。「僕もこのポストは初めての体験ですし、このメンバーでどんなキャンプができるかよくわかりませんが、コーチ陣といろいろ話し合いながら、できうる範囲の練習をしようと思っています。ただ、選手の気持ちだけは切らさせないようにハッパをかけていきます」矢野監督である。むずかしいだろう。選手にハッパをかける時、レギュラーを餌にしながらであれば気合いを入れ易いが、チームにおける自分の実力がわかっている1軍半的な選手には効き目は薄い。ハッパをかけたつもりが逆効果になる可能性さえある。

 果たして結果はどう出るか。確かに不安はあるがマイナス面ばかりの意識は禁物だ。プラス思考でぶつからないことには物事は前に進まない。今、ファームキャンプに参加している野手は、ペナントレースでは1軍の控え選手。戦力として、どこかで必ず必要となる人材だ。昨年、代打で活躍した伊藤隼太。DeNAから移籍の山崎。1軍経験豊富な荒木、今成、板山等々が、あと一歩でも、二歩でもレベルを上げるならチーム力は向上する。万が一、故障者とか極度の不振に陥った選手が出た場合でも、代わって1軍に昇格する選手が力に差がなければ、戦力が落ちることなく戦い続けることができる。矢野監督「もちろん、このメンバーが少しずつでもレベルを上げてくれるなら、1軍戦力のレベルアップにつながる。そういう意味では鍛え甲斐がありますよね」初の経験。不安は当然である。弱気は禁物も気合い十分。卓越した理論の持ち主・矢野監督、腕の見せどころだ。

 期待9分、不安1分。いまひとつ気になるのが上本博紀内野手(31)である。2軍スタートは大事をとっての措置だが、昨年11月右足関節の鏡視下手術を行った。いわゆる病み上がりの厳しい条件の中のキャンプだ。上本といえば昨年レギュラーをほぼ手中にしたプレーヤー。実力のある選手が戦力からはずれるとなると痛手だ。昨シーズン125試合に出場している。成績は409打数、116安打で打率は2割8分4厘。内野手として立派な数字。上本の存在はおわかりだろう。タイプは小細工の利く繋ぎ役。四死球54、犠打23、盗塁の16は持ち味を十分発揮している。「昨年の秋季キャンプもしていませんので、この春先の事なではよくわかりませんが、もう足の痛みはありませんから」(上本)様子を見ながらのスタートだが、見通しは明るい。

 杉本トレーナーは「もう、ほとんどといいますか、すべての動きは可能ですが、どこまで続けられるかはわかりませんので、様子を見ながらになりますかねえ」立場上慎重だが、キャンプ初日の動きを見た矢野監督は「思っていたよりいい動きをしている。このままいけば、まだ時間はあるし開幕には十分間に合いますよ」と太鼓判を押した。ただ、無理は禁物だ。

 レギュラー獲り。完全に自分のものにするチャンス。あと上本に足りないのは何だろう。当然攻守における安定感が要求されるだろうが、私が提案するならタイプとして“チームの野球博士”を目指してほしい。「野球はその時の動きで状況がころころ変わりますから、ひとつ、ひとつの作戦を覚えるのは大変ですが、確かにセオリーを含めていろいろ頭に入れておけば、状況判断などもスムースにできますよね。頑張ります」野球は筋書きのないドラマだ。本人が言うように簡単に把握できるものではないが、研究熱心な博士は各チームに必ず居る。上本ならできる。専門知識を身に付けろ。豊富な知識はチームメートのみならず、首脳陣からの信望も厚くなる。期待したい。

 いずれの挑戦もスローガンの執念を燃やして挑めば達成の確率は高い。(1)思い込んで動かない一念。(2)執着して離れない心。(3)その時の現実を片時も忘れない気持ち。執念の意味をひもといてみた。矢野監督「執念と言っても即、効き目があるものではないと思う。やっぱり積み重ねですよね」と語っていたが、同監督が推奨する積極性を植え付ければ自ずと執念に辿り着く。鳴尾浜に帰ってくる日を楽しみにしておこうっと-。【本間勝】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「鳴尾浜通信」)