鳴尾浜球場のライトへたたき込んだホームランには正直、驚いた。「凄い」思わずうなっていた。海の上に築いた埋め立て地にある球場。常にやや強めの浜風が心地よく右から左へ吹き抜けているが、この日の風は通常より強かった。スコアボードの連盟旗、球団旗が勢いよくなびいている。逆風、その風に負けることなくスタンドまで運んだ1発。現在絶好調。大山のすべてを物語っていると見た。スポットを当ててみたくなった。

 右バッターの1発だ。パワーのみならず右手を利かせて球を捉えないことには、打球は遠くへ飛ばない方向。強振した。ヘッドを利かせて強くたたいた。右手でバットを押し込んで打った。逆風の強度からするとまさかスタンドにまで届くとは思えなかったが、十分だった。技術が伴わないとできないバッティング。成長を裏付ける1発と見ていい。その主は阪神大山悠輔(23)である。

 桧舞台には昨年すでにデビューしている。というより、今年はレギュラー獲りが期待されていたほどの選手。開幕試合の巨人戦でも“6番サード大山”で先発出場している。結果はマルチ安打を放ち、ホームランも打っている。大山への期待はますます膨らんだが、プロの世界、甘くはなかった。実力の世界、相手はいろいろな角度から研究してくる。今まで打てていた球が打てなくなる。力不足を露呈する。何とかしたいが思うようにならない。悩む、そして焦る。気持ちの上でも前を向けない。自信を失う。辿る道は1つしかない。ファーム落ちである。

 2年目、くじけなかった。たくましく成長していた。2軍に降格しても積極的に練習に取り組んだ。課題はバッティング。ファームでの8試合。フォームの見直しに全力を注いだ。己を取り戻すことに集中した。プロ意識に目覚めた。技術の向上にかける姿勢は虎の穴での動きに表れていた。上半身と下半身のバランス、右手の使い方等々、自分で考え、自分で試みながら培ったバッティングは自信を取り戻した。鳴尾浜球場のソフトバンク戦、甲子園球場でのオリックス戦。大山のプレーは実にたくましく見えた。

 「自分でいろいろ考えながらやっていました」は浜中バッティングコーチ。「下へ降りてきたときは上半身の回転で打っていましたが、今は下半身の回転を主にして打ってみたり、右手でおっつけてみたり、自分で試しながら練習しています。その右手でおっつけて打ったのが、鳴尾浜での逆風を突いたホームランですね。まだ本物とは言えませんが、大分良くなっています。自信をなくして降りてきましたから、そういう意味ではいい機会だったとも言えます」自分で積極的に不振脱出に取り組んでいたことを強調していた。

 事実、急速に調子を上げていた。長打あり、クリーンヒットあり、4割を超える打率が物語るように、まるで1軍のレギュラーが2軍の選手を見下ろしてプレーしているかのように、右に左に真ん中にと打ちまくっていた。こんな大山を見て、つい矢野監督に「本物ちがう……?」と尋ねてしまったほどたくましく見えた。同監督「まだそこまでは……。でも、いろいろ考えながらやっているし、やっと自分が頭で考えていることと、体の動きが一致したのとちがいますか。確かにあの鳴尾浜のホームランは凄かったですね」ファームに降りてきたときに比べて調子が上がっているのは事実のようだ。

 早々と1軍に昇格した。糸井の故障があってのことかもしれないが、私は昇格に賛成だ。2軍にいてもこれ以上やることはない。本人は7月1日の時点では「まだやってみたいことはあります。いろんな事を考えながら練習している段階ですから。鳴尾浜のホームランですか……。逆風を考えますと、入るとは思いませんでしたが、いい感じで打てていましたし、手応えはありました」と語っていたが、昇格初スタメンの試合で放った同点となる右越え三塁打はあの1発を思い出した。そして1軍の対広島3連戦が豪雨の余波で中止となり、調整のために出場した9日の鳴尾浜でのウエスタン中日戦では、1ホーマーを含む3安打。好調をキープしている。「1球、1球を大事に取り組んでいることが、いい結果になっています」今度こそはレギュラー獲りを期待したい。【本間勝】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「鳴尾浜通信」)

2軍中日戦で左越え本塁打を放つ大山(2018年7月9日撮影)
2軍中日戦で左越え本塁打を放つ大山(2018年7月9日撮影)